「生活を見守る検査の未来」
- Intelligent Sensing

健康から都市構造まで、五感を超えるセンシング機能、ネットワーク化された自動検査、AI・ビッグデータ解析により人知を超える知見を獲得することで災いを予見し、生活を見守る検査の未来を目指します。

2015年、地球規模の優先課題や世界のあるべき姿を描いたSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されました。ここでは、17の目標のうち「すべての人に健康と福祉を」と「住み続けられるまちづくりを」という2つに着目し、それを実現するためのイノベーションを「検査」という観点から考えていきたいと思います。

まずは、「すべての人に健康と福祉を」について見ていきましょう。現代医療は目覚しい発展を遂げていますが、新興国の人口増大や先進国の少子高齢化は、健康に災いとなる新たな社会問題を顕在化させかねません。たとえば新生児や小児の疾病、感染症、あるいは認知症、がんなどの難病、複雑化する治療の副作用などの問題があります。こうした課題を克服するために大きな役割を担っているのが、基礎的な研究から導かれる先進医療です。それは、1)生物科学、2)実用化研究、3)臨床病理、4)診断/治療、という過程を経て結実します。

ここでは、臨床病理に焦点を当てて、具体的な取り組みを見ていきましょう。この領域では、近い将来に予想される検体数の増加に対して病理医の不足が危惧されています。このため、イノベーションによる現場の支援が強く求められています。

現在、病理診断では古くからの手作業を基本とするワークフロー(業務の流れ)が浸透していますが、その一方で病理画像のデジタル化を通じて、技術革新を展開する機運が高まりつつあります。今後は、診断プロセスを様々な切り口からデジタル化していくこと、そしてデジタル化に適応したワークフローや品質管理の仕組みを確立していくことが重要になります。

その実現には多くの改革が必要です。まず、病理画像の品質が安定化するような工程の改革が重要です。従来の目視による顕微鏡観察では、個々の病理標本の品質にばらつきがあっても病理医が頭の中で補正していたため、このような工程管理の必要性はあまり重要視されてこなかったのかもしれません。ところが、デジタル化されたワークフローでは、機械の目に適応した病理画像の品質を確保することが必要です。さらに、デジタル病理画像に対してAI(人工知能)や情報処理を活用し、病理医の負担を軽減する機能を実現していきます。

次に、「住み続けられるまちづくりを」という目標について見ていきましょう。建造物や交通システムといったまちの構成要素に対しては、高い職業倫理に支えられた保全管理が行き届いているはずです。しかし、昨今、橋梁やトンネルといったインフラの老朽化による事故や、交通システムの過密化による車両故障などが起きています。

まちを構成する要素の劣化は避けられないだけに、それらを日常的に見守り、危険の予兆をいち早く検出することによって、災害を未然に防ぐ仕組みへの期待は高いと言えます。

隠れている危険の予兆を検出するには、業界を越えた協力体制を敷き、組み込みセンサーによるリアルタイム検査、定期点検、そして補修に至るまで、あらゆるプロセスから提供されるデータを収集します。そして集積したデータをもとにAI(人工知能)によるビッグデータ解析を行うことで、微細な異常をいち早く検出できるようになれば、人知を超えた危険の予知が可能になるでしょう。それが速やかに専門家に伝わることで、適切な改修を行うことができます。

ここまでに、「人の健康の維持」と「居住環境の保全」という観点から、検査のイノベーション・コンセプトを提示してきました。これらの事例に共通する技術革新の考え方をIntelligent Sensing(インテリジェント・センシング)と呼ぶことにします。

従来は、検査、観察、計測と呼ばれる作業の多くを、人が担ってきました。このため、検査データは人が認知できる情報でなくてはなりませんでした。例えば画像検査機器の場合、RGBのカラー画像や30fps(フレーム/秒)の動画像が提示されますが、これはまさに人が使うことを前提にした規格です。しかし、こうしたデータを集積してAIを活用しても、人が機械に教えるためのアノテーションと呼ばれる作業が繁雑になる上、人の判定を大きく超える能力は必ずしも期待できません。

私たちが目指すべきは、現象を的確に捉え機械にとって適正なデータの収集です。例えば、RGBのカラー画像ではなくスペクトルデータを検出し、30fpsに限定しない高速現象あるいは逆に長時間の現象を捉える手段を構築します。また、データ解析を効率よく行うためには、クレンジングと呼ばれるデータの標準化、均質化プロセスが重要になります。さらに、現象を多面的に捉えて本質に迫るためには、マルチモーダル(原理の異なる複数の検出手段を統合すること)、かつマルチスケール(尺度の異なる検出手段を統合すること)なアプローチが求められます。

インテリジェント・センシング・ネットワークは、安全で安心な社会の持続という目的を共有する専門家が、オープンなマインドで協業してこそ可能となります。そのような社会を築いていくために、皆さんの英知を結集させていきましょう。

まだ見ぬ世界を、世界とつくろう。

イノベーション推進室がX INNOVATION(クロスイノベーション=共創)を推進してまいります。ご意見・ご提案・お問い合わせ等がありましたら、ぜひお聞かせください。