内視鏡検査の未来
- Workflow

「診断」「治療」といった個の発想から頭を切り替え、内視鏡医療のワークフローに着目し、フローの中で最適解を考える。一連のプロセスにコネクティビティを持たせ、そこで生み出されるデータを活用し、未来の内視鏡検査を支援します。

日本の人口動態データを見ると、4人に1人が65歳以上の高齢者で、今後も高齢化率は上昇していきます。高齢化の進行は世界的な問題ですが、日本は高齢化率が特に高い水準にあります。ほとんどの消化器でがんの罹患数が増加していることにも、高齢化が影響していると考えられます。

2029年までのがん罹患数推移(消化器領域)
出典:がん情報サービス/がん登録・統計
cancer_incidence(1975-2012),cancer_prediction(2010-2029)

消化器がんの早期発見と治療に大きな役割を果たしているのが内視鏡です。内視鏡とは、口、鼻、肛門などから細い管を挿入し、先端部に搭載された小型撮像素子を介して臓器の内部をモニターに映し出す装置のことです。

内視鏡は、1950年の胃カメラ誕生以降、半世紀以上にわたって様々な改良が加えられてきました。1960年代にはグラスファイバーが導入され、リアルタイムでの観察が可能になりました。その後、画像の高精細化、特殊な分光スペクトルを持つ照明の採用、ワイドアングル化などの改良が進みました。操作性についても、挿入部の硬さを変化させたり、腸管にフィットしやすくする機構を取り入れたりするなどの改良を重ねています。

これまでの進化は、内視鏡の観察性能や操作性の向上を追い求める道のりでした。しかし、AI(人工知能)、ICT(情報通信技術)の時代を迎えた今、イノベーションの方向性も変わってくるはずです。医師、看護師、パラメディカル(医師を補助する医療従事者)といった、医療にかかわる人々のスキルをAIが機能として取り込み、人を補佐することによって、画期的なパフォーマンスを生み出すことが期待されます。

ここでは、内視鏡検査のワークフロー(業務の流れ)のうち3つの構成要素に着目し、イノベーションの方向性を検討していきます。

まずは、CAD(診断支援)についてです。画像診断へのAI適用には長い研究開発の歴史があり、病変の発見支援や良悪性の鑑別支援を目指してきました。近年はディープラーニング(深層学習)と呼ばれるニューラルネットワークを採用した技術が脚光を浴び、この技術を用いた研究成果が学会などで多数発表されています。

診断へのAI適用は画期的なことであり、医療の価値を向上させる機能となるよう慎重に導入を進めていかねばなりません。CADの発展としては、いろいろな種類の対象に対応を広げていくことがあります。また、医師が画像から診断を導くとき、多様な知識が論理性を持って関係づけられているはずです。その知の構造を明らかにし、それに基づいた説明可能な診断支援技術を開発することも、ひとつの方向性ではないでしょうか。

2つめは、挿入操作へのAI技術適用です。内視鏡の大腸挿入には高度な技術が必要とされてきました。熟練した医師は学習と経験により脳内に腸管のモデルを持ち、モニターに映し出された画像と挿入部を操る手の感覚などの情報をそのモデルに組み合わせることで、適切な操作をしていると考えられます。経験が少ない医師のスキル向上をAI技術で支援できないでしょうか。

この課題に取り組もうとすると内視鏡には挿入操作に関するセンサーがないため、AIの学習データを得ようにも情報を取得できないという問題に直面します。

1つのアプローチとして、内視鏡挿入形状観測システムの活用が考えられます。これは、内視鏡内に配置されたコイルから出る磁界を体外のアンテナで検出し、体内における内視鏡の形状を推定する機器です。ただし、この情報を使った場合でも、周囲の腸管の状態や腸壁から受けている力は分からないという課題は残るため、新しい角度からのアプローチも必要です。

最後は、洗浄・消毒へのAI技術の適用です。内視鏡の洗浄・消毒は、使用後に自動洗浄機に入れてボタンを押せばOKというような単純なものではありません。そのワークフローは、使用直後の前洗浄、ブラッシング、検査、洗浄消毒機への適切なセッティング、乾燥、保管と進む中、随所に手作業の工程を含み、作業者のスキルに依存しています。

確実な洗浄・消毒のために機器をネットワーク接続して工程管理を行うソフトウェアが開発されています。この方向をさらに進化させ、適切なセンサーの配置、ICTによるデータ取得、チェックの強化など、AIによる支援を推し進めることによって、洗浄・消毒の工程をもっと安全性の高いものにできるのではないかと考えています。

ここでは内視鏡検査のワークフローから3つの構成要素を取り上げて、イノベーションの可能性を検討しました。様々な課題にイノベーティブな技術を取り入れることで、内視鏡医療の価値はもっと高めていけると信じています。

まだ見ぬ世界を、世界とつくろう。

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