最先端領域の研究者が
研究に没頭できるデザインに倒立型リサーチ顕微鏡 IX83
共焦点レーザー走査型顕微鏡 FLUOVIEW FV3000

共焦点レーザー走査型顕微鏡は、生命現象の解明や医薬品の開発など、ライフサイエンスの分野で幅広く利用されています。最先端の研究現場で使われる顕微鏡だけに高い性能が求められることは言うまでもありませんが、それと同時に研究者の方々にとって使いやすくデザインされていることもとても重要です。倒立型リサーチ顕微鏡「IX83」、そしてそれと組み合わせてシステムを構成する共焦点レーザー走査型顕微鏡「FLUOVIEW FV3000」は、どのような狙いを持ってどんなプロセスでデザインしたのか、その秘密をご紹介します。

2017年、「FLUOVIEW FV3000」は国際的に権威のあるiFデザイン賞を受賞しています。

研究現場を訪ねてデザイン上の課題を探求

オリンパスの顕微鏡には100年近い歴史があります。1920年の「旭号」に始まり、さまざまな方式の顕微鏡を発表してきました。今回ご紹介するレーザー走査型顕微鏡も30年近い歴史があります。
数多くの顕微鏡が発売される中で、ユーザー側にも顕微鏡のデザインはこういうものだという固定観念ができあがっています。そのため、カスタマーセンターに寄せられるユーザーの声を集めても、デザインに対する不満はほとんど上がってこないのが実情です。ご満足いただいているわけですから、従来機種の延長線上にデザインをすることも可能です。
しかし、「IX83」および「FLUOVIEW FV3000」の開発にあたっては、そのプロセスを変えることで、従来機種とは一線を画したデザインを目指しました。そのために特に重要だったのが、研究施設の訪問でした。開発担当者やマーケティング担当者とともに、デザイナーが研究の現場を見ることで、これまで明らかになってこなかったデザイン上の課題発見を試みたのです。これはオリンパスの医療機器の開発で成果を上げ始めた手法で、顕微鏡分野でも今回初めて本格的に導入しました。


1920年発売 旭号


2012年発売 IX83

研究現場を訪ねて分かった研究者の熱意

ユーザー訪問では、最先端の研究をしている国内の研究所をいくつか訪問しました。実際の使用環境を見せていただくことで初めて分かることが数多くありました。
研究者が見たい画像は、それぞれの研究によって異なります。そこで研究者の方々はご自身が見たいものを見られるよう、顕微鏡にオリンパス製やサードパーティー製、あるいは自作の拡張機器をいくつも装着しています。まるで増築を重ねた建物のように、システムが上方に拡張されているのです。もともと共焦点レーザー走査型顕微鏡は多くのケーブルを必要とするシステムですが、さらにケーブルが増えています。ケーブルを引っ掛けないか心配になるほどです。


多くのケーブル

また、共焦点レーザー走査型顕微鏡は、狙いをつけたたんぱく質を観察するため、特定の周波数の蛍光を当てて、励起した蛍光を観察します。微弱な光を扱うため暗室で観察するのですが、隣にあるモニター画面の光が顕微鏡に当たって反射しないように、黒い艶消しの布を顕微鏡に貼って、顕微鏡を真っ黒にしている研究者もいらっしゃいました。
こうした研究環境を見せていただくことで具体的な課題が明らかになりました。それと同時に、観察したい画像を得るためにあらゆる工夫をしておられる研究者の姿が強く印象に残りました。そして、研究者の方に余計な神経を遣わせることなく、本来の研究に没頭していただけるデザインを考えることが重要であると認識しました。

デザインのコンセプトを分かりやすく表現

形のデザインに入る前に取り組んだのが、デザインのコンセプトを分かりやすく文章で表現することです。それを開発やマーケティングのスタッフと共有することで、複数のデザイン案の中でどれがコンセプトに最も適合しているかをロジカルに判断できるからです。
今回のシステムは、「快適に使える道具としてデザインされていること」「洗練されたシステムとしてデザインされていること」「新世代のオリンパスとしてデザインされていること」という3つのコンセプトを掲げ、それぞれについて達成すべき具体的な目標を立てました。
次に、目標を達成するためのデザイン案を作成しました。今回は、若手、中堅、ベテランの3人でチームを構成し、それぞれがデザイン案を考えました。そして、それらの中からベースになる案を選び、そこに別のアイデアも採り入れながら、デザインを練り上げていきました。
複数メンバーがデザイン案を考える場合、コンペティションを実施して、いずれかの案を採用する手法もありますが、今回は同じ課題を共有した3人がそれぞれの視点で考えたデザイン案をすり合わせながら、ひとつのデザイン案にまとめていく手法を採りました。複数のメンバーが同じ課題に取り組むことで発想の幅を広げ、しかもベースとなるデザイン案に、ほかのよいアイデアを採り入れることで、最善の成果を求めたわけです。

剛性が高く、機能性に優れたデザインに

実際に仕上がったデザインの特徴を紹介しましょう。このシステムで実現したのは、剛性感のあるデザインです。前述のように、研究現場では顕微鏡に多くの拡張機器が付け加えられています。顕微鏡は微細なものを観察しているので、振動によってごくわずかに動いても、観察対象が見えなくなってしまいます。このため、通常はステージ下部のフレームは「凹」の字型になっているのですが、「ロ」の字型にすることで十分な剛性を確保しました。構造的な工夫で実際の剛性を高める一方で、見た目からもユーザーが剛性に対して安心できるようなデザインにすることも必要でした。初期段階で、発泡スチロールを使って原寸大の模型を作ったところ、顕微鏡の後ろに設置するユニットに比べて顕微鏡が華奢に見えることが分かっていたからです。このため、「ロ」の字型のフレームにカバーを取り付けることで顕微鏡を剛性感あふれる無垢な塊に見えるようにし、顕微鏡の後ろに設置するユニットは角を落とした形状にするなどして、できるだけ小さく軽快に見える工夫をしています。


発泡スチロールを使った原寸大の模型


角を落とした形状のユニット

また、ハイライトラインを縦方向に統一しシステム全体をシンプルに見せるデザインは、複数の拡張機器を取り付けても煩雑にならずに、どこか洗練された印象を与えることを目的としています。
また、顕微鏡本体の左右に異なる役割を持たせたことも大きな特徴です。研究の現場では、研究者の方が顕微鏡の前に座っている時間は意外と短いことが分かりました。顕微鏡に観察対象をセットして見たい場所を探したら、あとは大半の時間を右側に置いたモニターの前で過ごしています。そこで、モニターの前に座ったときに見える顕微鏡右側はユーザーエリアとして、研究に没頭できるよう、何もないすっきりとしたデザインになるようにしました。その一方で、増えていくケーブルや拡張機器はすべて顕微鏡本体の左側に集中させました。
カラーリングも、実際の研究環境に合わせています。暗室での使用時に光の乱反射を抑えるために黒を基調としています。それによってケーブル類が目立たなくなり煩雑な印象が軽減される効果もあります。ただし、ユーザーが操作する部分だけは暗室でもぼんやりと浮き上がって分かりやすいように、白に配色しています。


研究に没頭できる、すっきりしたデザインの右側


ケーブルや拡張機器を取りまとめる左側

ソフトウエアは暗室に適した明るさに

画像取り込みに使うソフトウエアのGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス:画面上に配置されたボタンやアイコンなどを操作する方法のこと)も、従来のものから刷新しました。特に大きく見直したのは、ソフトウエアの明るさです。研究室を訪れて分かったのは、暗室が想像以上に暗いことでした。観察画像に集中できるようにするには、従来のものよりも観察画像以外の部分の明るさを大幅に落とすべきと考えました。
ソフトウエアには、数多くの文字があります。文字の明るさを変えるだけでも、画面全体の明るさはガラリと変わります。そこで、背景、文字、ボタンなどの明るさを調整しながら最適化を図りました。通常の部屋で見るととても暗く見えますが、暗室で見ると、ちょうどよい設定にしています。
もう1つ、GUIのデザインで考慮したことがあります。それはカラーユニバーサルデザインへの配慮です。人間の色覚の多様性に配慮し、より多くのユーザーが利用しやすい配色を選びました。開発の過程で何人かの色弱者の方に来ていただき、どのような配色にすれば見えやすいかを確認していただきました。

ソフトウエアのグラフィカルユーザーインターフェイス

頭の中に地図を描きやすいレイアウトに

ソフトウエアの機能レイアウトは、最も試行錯誤が必要だった部分です。このFV3000システムでは、30インチという大きなモニターを使います。そのため、当初は操作の際になるべくマウスの移動距離を短くして、ユーザーの負担を軽減したいと考えました。研究現場で実際に行われるいくつかの代表的な操作手順を開発担当に示してもらい、マウスの移動距離が最短になるレイアウト案を作成しました。
しかし、実際にそのレイアウトで試してみると、どうも操作がしっくりこないという問題に直面しました。そこで明らかになったのは、大まかに「観察画像の撮影」「撮影条件の応用」といった機能が分類されていて、それらがどの位置にあるかという地図をユーザーが頭に描けないと、いくらボタンが近くにあっても実際の操作はスムーズに実行できないということでした。そのため、マウスの移動距離を短くすることに重点を置くのではなく、目的によって機能分けしたレイアウトを採用しました。


マウスの移動距離が最短のレイアウト案


目的によって機能分けしたレイアウト

よりよい未来を実現するデザインを求めて

顕微鏡はアルツハイマーの原因を調べたり、がんのメカニズムを調べたりといったさまざまな研究に使われています。そして、それらの研究は新しい治療薬を開発するなど、私たちの未来をよりよくすることにつながっています。そういった研究に貢献する顕微鏡ですから、そのデザイン自体もよりよい未来を感じさせるものにしたいと考えています。
しかし、それは必ずしも強くデザイン性を主張したいということではありません。大切なのは研究者の方々がご自身の研究に没頭することを助ける道具であることです。研究者が顕微鏡やソフトウエアの存在を意識せずに使いこなせる、まるでそこに存在していないかのように快適に感じられるものをデザインすることが1つの理想であり、そのデザインによってよりよい未来に貢献することを目指しています。

倒立型リサーチ顕微鏡IX83 共焦点レーザー走査型顕微鏡FLUOVIEW FV3000