マダガスカルに棲息する固有種を求めて 岩合 光昭

インタビュー:2015年8月18日/公開日:2015年11月19日

岩合 光昭 Mitsuaki Iwago

1970年に訪れたガラパゴス諸島で、自然の圧倒的なスケールに触れ、動物写真家としての道を歩き始める。日本人写真家として初めて『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度にわたって飾るなど、想像力をかき立てるその写真は世界中で高く評価されている。『地球動物記』『生きもののおきて』など写真集、著書多数。近年は、猫を撮影した写真集が人気を集めている。

そこでしか見られない原猿類の宝庫

動物写真家・岩合 光昭氏が、アフリカ大陸の東400キロに浮かぶマダガスカル島を訪れました。そこに棲む珍しい動物たち、魔法使いのような老ガイドのこと、動物写真の楽しみ方などのお話をうかがいました。

編集委員

去年10月と今年5月にマダガスカルを訪れたそうですね。それほど間をあけずに2度にわたって撮影に行かれたのはなぜですか。

岩合

どこに行くときもそうなのですが、雨季と乾季があるところはどちらも見たいと考えています。緑の季節と乾いた季節は様子がまるっきり違いますから。ただ、世界的な気象異変のため、マダガスカルも雨季と乾季がはっきりとは分かれなくなっていると聞きました。

編集委員

マダガスカルにはどんな動物が棲んでいますか。

岩合

マダガスカルは固有種の多いところですね。まずは、原猿類[※1]。キツネザルがその代表選手ですが、ほかにもシファカやインドリなどいろいろな種類がいます。日本にはほとんど紹介されていない種類も多いですね。鳥、カエル、カメ、カメレオンなども、そこにしかいないものがたくさんいます[※2]

※1 チンパンジーなどを含む真猿類に比べて原始的特性を残している。主に熱帯多雨林に分布し、樹上で生活する。

※2 マダガスカルで撮影した作品をまとめた、2016年オリンパス/WWFカレンダー『MADAGASCAR 原猿の棲む島 - マダガスカル』が10月下旬からWWFの通販パンダショップ(http://shop.wwf.or.jp/)で販売されます。その利益はすべてWWFの地球環境保全活動に役立てられます。

シファカの行動に隠された悲しい現実

編集委員

マダガスカルで原猿類に出会うのは難しいのですか。

岩合

いえ、そんなことはないです。マダガスカルでは、自然を貴重な観光資源と捉えています。つまり、自然保護区は観光地でもあるのです。たとえば、ベレンティ自然保護区。ここは、東京で言うと銀座4丁目みたいなもので、自然を探訪する観光客は必ずそこへ行きます。乾燥している地域ですが、森もあります。その貴重な森を切り開いてサイザルアサの畑にしました。それで残った一部を保護区にして、そこにホテルを建てているのです。一方で自然を壊して、もう一方で自然を守るということですから、ちょっと矛盾していますね。

ここでシファカの写真を撮りました。横っ跳びをしながら道を横断する姿が世界中に広まっているので、ご存じの方も多いと思います。実は、僕は40年前にもマダガスカルを訪れているのですが、そのときはそういう写真は撮れませんでした。というのは、シファカは樹上生活者なので、本来は地面に降りてこないのです。当時はまだ森が残っていたから、跳ぶ必要がなかったんですね。今回、僕もこういう写真を撮りましたけれど、正直なところ、「こんなふうに跳ばなくてはいけなくなったんだね」と、胸が痛む思いがしました。

サルを見上げた写真は撮らない

編集委員

原猿類の中でも、特に数が少ないのは何ですか。

岩合

インドリですね。インドリは雨季に訪れたときに、首都からすこし離れたところにある自然保護区で撮りました。昔は自然保護区がなかったところで、森の中を分け入って、村人と話しながら探したのですが、いまはすっかり様子が変わりました。一言で言うと、とてもシステマティックになっています。インドリは観光客向けの目玉商品なので、登山道もしっかり整備されていて、観光客が来たらガイドがインドリを見つけるという段取りになっています。

編集委員

イメージとはずいぶん違います。写真を撮るのが難しいのではないですか。

岩合

そんな環境でいい写真を撮るには、ガイドさんとの付き合い方が大切です。今回は、事前の打ち合わせで、どういう写真が撮りたいかをガイドさんに明確に伝えました。サルは、樹上にいますね。そうすると、普通は見上げる写真になるわけですが、それでは写真としておもしろくない。それで、サルと同じ目線でなければ撮らないと伝えたのです。

観光客と一緒に動くと身動きが取れないので、朝一番に出かけました。インドリは、コミュニケーションを取るために鳴き交わします。ただし、鳴き声がしても、すぐにそこに向かえばいいわけではありません。狙い通りの写真が撮れるのは、斜面に木が生えている場所だけです。そこで、樹上にいるインドリを斜面から狙うわけです。だから、インドリの鳴き声がすると、ガイドさんはじっと地形を思い浮かべながら、「これは駄目」「ああ、この鳴き声だったら大丈夫」という感じで、こちらのリクエストに応えてくれました。

鳥を知り尽くした老ガイドに驚嘆

編集委員

この写真はチョウゲンボウでしょうか。切り立った岩だらけのすごい場所ですね。

岩合

ここはツィンギーという自然保護区ですが、40年前に行ったときにはまったく知られていなかったところです。この尖った針山は、100メートルぐらいの高さがあります。

僕らがいるところも切り立った岩の上です。登山ルートのようにハーケンが打たれていて、カラビナをかけて1時間くらいかけて登っていくのです。日中は気温が40度くらいあって、登るだけでフーフー言うくらいです。でも、1週間くらい撮影したので、最後は30分で登れるようになりました。岩の上の尖ったところを僕がピョンピョン進んでいくので、コーディネーターはすごく心配していましたね(笑)。

編集委員

あまり見たことのない、鮮やかな色彩の鳥も多いですね。

岩合

これらの写真は、主にアンカラファンチカ国立公園で撮りました。ここで出会ったガイドさんがすごかったです。大ベテランで、最初は「静かな人」と思ったのですが、実は鳥の動きが全部分かるといってもいいくらいの、すごい人でした。

たとえば、一緒に歩いていると、突然止まれと合図する。何かと思ったら、「いま鳴き声がした」と。それで黙って彼について森に入っていったら、目の前にばたばたと鳥が降りてくるんです。「どうやって引き寄せたの?」という感じですよね。1、2枚撮っただけでその鳥が飛び立って困っていると、「お前三脚を持っているなら、この位置で立てろ。この枝に絶対降りてくるから」って。実際に、その通りに降りてくるんです。本当にビックリしましたよ。

そのガイドさんは、BBCの取材なども案内しているらしいです。こういう人が案内してくれると、こちらもワクワクするじゃないですか。日本でも形式的な制度を整えるだけでなくて、本当に自然を楽しませて、自然を教えられる人を育てるべきだ、と思いましたね。

手つかずの自然を残していくために

編集委員

雨の中にいる鳥は、カワセミですか。

岩合

そうです。日本にいるのと同じ種類だと思います。雨が降ると、動物は雨にあたらないように木の陰に入ったりするから、土砂降りの中にいる動物を撮るのはなかなか難しいです。でも、僕は必ずしも晴れた日に撮った、鳥の羽が輝いている写真だけが気に入る写真になるとは思わないんですよね。

編集委員

雨を見ながら物思いにふけっているように見えますね。

岩合

写真って、そういうものですよね。自分がそこに行ったら、こういう思いがするだろうとか、やっぱり雨を見るだろうなあとか、想像力を働かせる。ただ、動物が何かをしているというだけだったら、おもしろくないじゃないですか。でもそういうことに気付くには、結構時間がかかるんですね。僕自身も、そういうことを明らかに意識し始めたのは、アフリカを撮影して以降のことです。

編集委員

2匹のカメが顔を寄せているこの写真は、独特の雰囲気がありますね。

岩合

このあたりは、自然保護区の中でも特によく自然林が残されているところです。地面にはホウシャガメがいて、後ろには大きなバオバブの木が生えています。ちょっと移動して空を見上げるとワオキツネザルがいて、サボテンのような植物から植物へ飛び移っています。そして、横を見ると、そこにはカメレオンがいる。ここは宿舎から離れているので、観光客もあまりやってきません。こんな場所は、もうここしかないと言われました。

だけど、こんなふうに手つかずで残されている林と、植林されて整った林を子どもたちが見たら、どちらを美しいと思うのでしょうか。多くの子どもたちは植林された林を選ぶと思いますが、やっぱり僕はこっちを美しいと言ってほしいですね。そんな感性を持ってもらうためには、こういう自然環境をたっぷりと子どもたちに見せないといけないと思います。

文:岡野 幸治