内視鏡ビデオスコープシステムEVIS LUCERA ELITE患者さまにはよりやさしく 先生にはより扱いやすく

1919(大正8)年に顕微鏡メーカーとして創業したオリンパスは、顕微鏡で培った微細なレンズ加工や組み立て技術を医療用内視鏡にも生かしています。現在、オリンパスの消化器内視鏡は、世界で約7割の市場シェアを占めています(当社調べ)。このたび新システム「EVIS LUCERA ELITE(イーヴィス ルセラ エリート)」を開発しました。このシステムには、観察性能のさらなる向上や大腸内視鏡検査におけるドクターの操作性の向上を目指して新しい発想でチャレンジした技術を数多く搭載しています。

ここに掲載されている内容は2013年2月28日時点の情報です。

木村英伸

オリンパスメディカルシステムズ 第1開発本部 内視鏡開発部長

機械工学科を卒業後、工業用内視鏡の開発を希望して入社。工業用内視鏡のファイバースコープ開発などに携わり、2年目から医療用内視鏡の開発を手がける。以後、主に海外向けの内視鏡ビデオスコープシステムの開発に従事。

内視鏡ビデオスコープシステムの開発に当たって、我々は三つのコンセプトを掲げました。それは、(1)使いやすさの向上、(2)高精細な観察画像の実現、(3)信頼性の向上です。しかし、これらを実現するには、これまでにない発想と地道な検証が必要でした。


内視鏡ビデオスコープ 各部名称(本文中ではスコープと表記しています。)
1:接続部/2:湾曲部/3:先端部/4:挿入部(シャフト)/5:操作部


内視鏡システム 各部名称
1:液晶モニター
2:ビデオプリンターなど周辺機器
3:ビデオプロセッサー:スコープからの電気信号を映像信号に変換してモニターに表示します。
4:光源装置:キセノンランプで自然光に近い光を発生させ、スコープ先端部へ送ります。スコープに水や空気を送り出すポンプも内蔵しています。

壁にぶつかると自然に曲がる

まず取り組んだのが、使いやすさの向上です。内視鏡検査というと多くの方が「苦しい」「痛い」といったイメージを持っていらっしゃるかもしれません。しかし、内視鏡は昔に比べると体内への挿入部は径が細くしなやかになり、機構的にもさまざまな工夫がなされているので、それほどの苦痛は感じないという患者さまが増えています。

ただ、まったく苦痛がないとは限りません。例えば、大腸の内視鏡検査や処置の場合に大腸スコープでは、先生が肛門から先端部を挿入し、手元で操作部を操作しながら腸内を進めていきます。大腸は曲がりくねった臓器で、90度以上に曲がった部分もあります。そうした箇所で湾曲部が腸壁を押すと、患者さまはお腹をこわしたときのような鈍い痛みを感じることがあります。


受動湾曲機能のイメージ

手技に長けた先生はそうした難しい箇所も上手に切り抜けて進まれますが、今回はより多くの先生がもっと簡単に使えるようにできないかと考えました。その結果取り入れたのが、大腸スコープの湾曲部手前に搭載した受動湾曲部です。湾曲部と連動した特殊な機構になっていて、湾曲部が腸壁に当たって力がかかると、この受動湾曲部が自動的にしなります。これによって、腸壁を押す力が内視鏡先端部を先へ進む力へと変換されるようにしたのです。

しなやかで力が伝わりやすいシャフト

大腸スコープにおけるもう一つの工夫が「高伝達蛇管(じゃかん)」と名付けたシャフト(スコープの挿入部)です。複雑に曲がった腸内を大腸スコープがしなやかに進んで行くようにするためには、シャフトは柔軟にしたいところです。しかし、そうなると、先生がシャフトを押し込んだりねじったりする力が腸に負けてしまい大腸スコープが進んで行かない、という問題が生じます。

高伝達挿入のしくみ

シャフトは、断面を見ると大きく3層に分かれています。それぞれが異なる素材で構成されているので、シャフト自体の曲げ・ねじりによってそれぞれの構成物がこすれあい、シャフトに加えた力にロスが発生してしまい、スコープへの力の伝達にもロスが発生します。大腸スコープの開発を担当していたエンジニアが、ある時「構成物同士の干渉を無くしてスムーズに動くようにすると大腸スコープの先端に力が伝わり易くなるのではないか」と驚くようなことを言い出しました。このアイデアを具体化するためには、これまで長年続けてきた製造のプロセスを一から見直す必要があったのですが、やってやれないはずはないと考え、製造部門と共に実現の可能性を探る活動に取り組みました。

もちろん、我々は検討の段階で実際に患者さまの身体にスコープを入れるわけにはいきません。客観的な比較データを得るために、洗濯機の排水ホースのようなチューブで模型を自作し、力を測定する機器を取り付けて繰り返し、繰り返し実験を行いました。こうした試行錯誤の結果、しなやかなのに力がしっかりと伝わるシャフトとこれを作る製造プロセスができました。

がんなどの微細病変の早期診断をサポートするNBI

使いやすさという点では、もう一つの課題がありました。それは、NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)と呼ばれる観察手法の改善です。NBIは、オリンパスが独自に開発して2006年に実用化した観察手法です。内視鏡で病変を観察するときは普通、光の三原色である赤、緑、青(RGB)を合わせた白色光で観察します。これに対して、NBIでは赤を除いた青と緑の光で観察するのです。がんなどの腫瘍は細胞を増殖させるために、毛細血管を使ってエネルギーとなる養分を集めます。粘膜表面の毛細血管の形状や集まり方を見ることが、がんか否かを判別する重要な手がかりとなるのです。NBIでは血液中のヘモグロビンが青色光を吸収して粘膜表面の毛細血管を浮かび上がらせることで、がんなどの微細病変部を見やすくします。


NBIのしくみ
1:緑色の光:深部の血管中のヘモグロビンに強く吸収され反射しません
2:緑色の光:深部の粘膜下組織内部で強く反射します
3:青色の光:組織の浅い部分にある毛細血管中のヘモグロビンに強く吸収され反射しません
4:青色の光:粘膜表層で強く反射します
5:NBIモード時のモニター画像:反射した光と反射しない光を統合し判別しやすく映像化します
6:粘膜表層の毛細血管
7:粘膜下組織内部の太い血管

この技術を使った内視鏡を発売して以来、「早期がんの診断に有用」とのご意見をいただくことができました。ただ、「もう少し明るくなれば使いやすいのだが」というご要望も頂戴しました。常識的に考えると、NBIでは光の波長を二つの狭い帯域に絞っているために、光量が減って白色光での観察に比べて暗くなります。しかし、実際に現場でご使用になる先生が使いにくいとお感じになるのであれば、メーカーとしては改善する責務があると考えました。

明るいNBIで使いやすさを改善

この課題解決には、二つの手法で取り組みました。一つは、光源自体の改良です。内視鏡の観察光は、ビデオスコープシステムの光源装置にキセノンランプを内蔵し、グラスファイバーを通してその光を内視鏡の先端に導きます。今回、病変の観察が白色光からNBIに切り替わると、システムがその変化を検出して、光源装置内のランプを明るくするように改善しました。また、システムのレンズやミラーなどの機械的な精度を上げることで、ランプの光を内視鏡のグラスファイバーに漏れなく集めるようにしています。


G:緑色/B:青色
左:当社従来製品の回転フィルター方式
右:EVIS LUCERA ELITEの方式

もう一つは、フィルター構成の抜本的な見直しです。通常光による観察では、光源の中にRGB(赤緑青)の回転フィルターがあり、そのフィルターを通った赤、緑、青の光がチラチラと順に照射されます。一方、NBIによる観察では、光はまずNBIフィルターを通り、そこで緑と青に絞り込まれた光が回転フィルターを通過します。しかし、そもそも赤色光がないのですから、R(赤色)のフィルターがかかるときは何も照射されないことになります。

従来製品NBI画像

新製品NBI画像

「これはもったいない」と考え、何とか赤色のフィルターがかかるタイミングに青色のフィルターを入れ込み、露光回数を増やせないかと考え続けた技術者があるアイデアを思いつき、今回、EVIS LUCERA ELITE専用の回転フィルターを設けました。専用フィルターでは、NBIに切り替えた際に赤色のフィルターの代わりに、青色のフィルターをかける仕組みになっております。このアイデアについて具体的に紹介することができませんが、これによって、今までは回転フィルターが一周する間に2回しか光を照射していなかったのが3回照射できるようになり、従来以上の明るさを実現できたのです。

ワンタッチで近接観察にフォーカス切り替え

次は、どのようにして高精細な観察画像を実現したか、という話に移りましょう。ここで最大のチャレンジとなったのが、「デュアルフォーカス」機構の採用です。内視鏡検査をしている時に、発見した病変をよく見ようと粘膜にどんどん近づいていくと、一般的な内視鏡では一定の距離以上に近づくと病変部にピントが合わず像がぼやけてしまいます。これはピントの合う距離が定まっているためです。また、拡大観察機能を搭載した特殊な内視鏡では、拡大観察を行うとピントが合う距離が非常に狭くなってしまいます。そのため、拡大観察操作レバーを動かしながら、内視鏡の先端をほんのわずかに前後させてピントの調整をし、観察しなければなりません。手元から離れたスコープ先端部でこの操作を瞬時に行うには、熟練した技術が必要でした。


デュアルフォーカス機能のイメージ(右)

今回、「通常観察」と「近接拡大観察」の2段階のピント切り替えができるデュアルフォーカス機構を開発して、この課題を解決に取り組みました。粘膜や毛細血管など対象物に接近した観察の場合でも、スイッチを押すだけでピントが合わせやすく、容易に高精細な画像が得られます。

この機構は、今回の製品開発で技術的に最も困難なトライでした。デュアルフォーカスの仕組み自体は、簡単に言うと、複数あるうち直径2mm程度のレンズが一つ動くだけです。しかし、移動量はわずか0.5ミリ、髪の毛ぐらいの太さのアクチュエーターを精密な機構で動かしています。しかも、先生にストレスなく使っていただくには、瞬時に動かしピントを合わせなければなりません。検査中は患者さまの状態に合わせてシャフトがどんな形状に曲がっていても、精密かつ高速に動作させる必要があります。安定した品質を維持するために、さまざまな状況を想定し、多くの検討を繰り返し行い、ピンポイントの設計条件を見つけ出すことに苦労をしました。

業務効率を改善して信頼性をアップ


ワンタッチコネクター

最後にご説明したいのが、信頼性の向上というテーマです。内視鏡を使用する場面における看護師など医療従事者の方の業務簡略化を図り、取り扱いミスによる故障を極力防止することにより、信頼性を高めることを狙いました。

今回のシステムでは、システムのほかの機器とスコープを接続するコネクターの形状を一新しました。これまでのように、スコープを挿してケーブルを接続して、というプロセスが不要になり、スコープと光源装置およびビデオプロセッサーをワンタッチで確実につなげられます。

加えて、接続部の完全防水を実現しましたので、スコープを使用した後の洗浄・消毒を行う際に、スコープをそのまま消毒液に浸漬(しんせき)できるようになりました。従来はスコープの一部に防水キャップをその都度装着する必要がありました。これで、防水キャップの付け忘れを原因とする内視鏡の故障は限りなくゼロに近づけることができましたし、装着の手間も軽減できるようになりました。

日本から質的診断のすそ野を広げたい

日本の内視鏡検査は、世界のトップレベルにあります。特に、医療分野で拡大内視鏡を使った診断がこれだけ普及している国は、ほかにはありません。ただ、そうした機器を本当に自在に使いこなしていらっしゃるのは、日本の中でも優れた先生のみだとお聞きしています。

使いやすさと診断性を向上させた今回の製品は、これまで十分に使いこなせていなかった経験の浅い先生方にも、より積極的に使っていただけると思います。それによって、これまで日本の先生方が高いレベルを誇ってきた、病変の質を問う質的診断のさらなる向上に貢献できることを願っています。