外科手術用エネルギーデバイスTHUNDERBEAT2つの技術を合体

オリンパスメディカルシステムズはこのほど、新たな外科手術用デバイス(機器)「THUNDERBEAT(サンダービート)」を開発し、米国、欧州、およびアジアの一部地域で発売を開始しました。これは、従来から存在する2つの技術・デバイスの特徴を併せ持った、世界初のエネルギーデバイスです。

別々の技術を組み合わせる発想はどこから生まれたのか、製品化の高いハードルをいかに乗り越えたか——。オリンパスメディカルシステムズ治療機器開発部部長の岡田光正と外科マーケティング部・新手技/エネルギーグループのチームリーダーである竹之内真人が、その技術が生まれた背景と開発秘話を、内視鏡下外科手術の知識と共にご紹介します。

おことわり
本記事は、内視鏡下外科手術とそこで用いられる機器の技術をご紹介する目的で作成したものです。

ここに掲載されている内容は2012年3月31日時点の情報です。

岡田 光正

オリンパスメディカルシステムズ 治療機器開発部 部長

外科製品の開発一筋で、特に超音波機器の開発に長年携わってきた。THUNDERBEAT開発では、高周波電流と超音波を組み合わせるための先端構造や出力特性の最適化などの技術的なブレークスルーを成し遂げたほか、欧州の開発拠点との同時進行による開発プロジェクト(PJ)運営に尽力。

竹之内 真人

オリンパスメディカルシステムズ 外科マーケティング部 新手技/エネルギーグループ エネルギーチームリーダー

「人々の生活に直接貢献できる仕事に就きたい」との思いでオリンパスに入社。外科用内視鏡の国内営業や泌尿器科用内視鏡のマーケティング担当などを経て、2007年より3年間、欧州にて外科製品のマーケティングに従事した。本開発PJにおけるマーケティングの中核メンバー。

開腹手術から内視鏡下外科手術へ

手術というと、腹部を大きく切る「開腹手術」を想像される方が多いかもしれません。しかし、1990年代以降、手術の様子は一部で大きく変わってきました。お腹に小さな孔をいくつか開けるだけで済む手術が可能になってきたのです。最初に開けた孔から内視鏡を挿入して体内をビデオモニターに映し出し、別の孔から必要な器具や処置具を挿入して手術を行うのです。こうした手術を内視鏡下(か)外科手術と言います。


内視鏡下外科手術の例(腹腔鏡下胃切除術)
1:腹壁
2:鉗子
3:手術モニター
4:内視鏡

内視鏡下外科手術は、大きく開腹をせずに済みますので、患者さまの感じる術後の痛みが少なくて済むと言われています。また、従来は手術後数週間の入院が必要だったものが、手術によっては2、3日で退院できます。当初は、胆のう摘出手術のように、比較的簡単とされる手術しかできませんでしたが、今では大腸の手術や腎臓の摘出のように、難易度の高い手術にも適用範囲が広がっています。

「いかに止血するか」が重要なテーマ

内視鏡下外科手術では、組織を切離(せつり=切り離すこと)するときに出血を防ぐことがとりわけ重要になります。万一出血したとき、開腹手術に比べると、止血処置が大変だからです。そこで、出血を防ぐための血管封止(ふうし=漏れたり流れ出たりしないように、封をすること)と組織の切離が1本でできるデバイスが幅広く使われています。このデバイスは、組織を高温にすることでタンパク質の変性を促すことにより血管壁どうしをくっつけて封止し、その後で切離を行います。

こうしたデバイスは、組織を高温にするために何らかのエネルギーを用いるので、一般に「エネルギーデバイス」と呼ばれます。現在多く使われているエネルギーデバイスには、高周波の電流を使うものと、超音波による振動を使うものの2種類があります。それぞれに利点が異なり、手術のタイプや場面によって使い分けられています。まずは、両者の特徴をご説明しましょう。

高周波電流と超音波振動とで異なる特徴


高周波電流を用いたデバイス(バイポーラ型)の機能イメージ

高周波電流を使うデバイスの利点は、血管の封止能力が高いことです。「バイポーラ型」と呼ばれる高周波電流エネルギーデバイスでは、切除したい部分をデバイスの先端部で挟み、その間に高周波電流を流します。すると、組織が電気的な抵抗になって熱が発生し、組織の温度が上昇します。その結果、タンパク質が変成して血管が封止されるのです。

しかし、温度上昇は100℃くらいで止まるので切断まではいきません。この状態になったところで、ブレード(刃)を組織に走らせると、出血せずに切離できる、というわけです。しっかりと血管を封止できるのが利点ですが、「電流を流す」→「切る」という2つの操作が必要になります。


超音波振動を用いたデバイスの機能イメージ

一方、超音波振動を使ったデバイスは、血管を封止し、切離するまでを1つの操作でできるのが利点です。プローブと呼ばれる振動棒ともう1つの金属の棒とで組織を挟み、強力な超音波を発生させます。すると、プローブが高速に振動します。その摩擦熱で組織の温度が上昇してタンパク質が変成し、200℃くらいになると崩壊して、組織が切断されるのです。切断できるだけでなく、血管封止効果もあります。ただし、その封止能力は高周波電流エネルギーデバイスほどではありません。

技術の合体を生んだ、ドクターのひと言

我々は、常に新しい手術に挑戦されているドクターにお会いし、現行製品へのご意見や克服すべき課題を伺いながら、医療機器の開発を進めています。その中で、「超音波振動エネルギーデバイスの血管封止能力をもっと高めてほしい」というご要望を聞いていました。一方、高周波エネルギーデバイスでは、操作の煩雑さが課題になっていました。しかし、それらはそれぞれの製品が個別に抱える課題という認識でした。

それが一転したのは、ある外科のドクターの手術に立ち会った時に目にした光景がきっかけです。そのドクターが、最初に高周波電流で組織を焼いて、その後に超音波で切る方法を行っており、「この方法は、すごくいいんだ!」とおっしゃったのです。その時、2つのデバイスを組み合わせる発想が思い浮かびました。それによって強力に血管を封止しながら、素早く組織を切断できるのではないかと考えたのです。

世界初への高い障壁


THUNDERBEAT

幸い、オリンパスでは、高周波電流、超音波振動、どちらの技術も持っていました。しかも、その当時、高周波電流を使った止血専用デバイスの開発も進んでいたのです。そこで、これらの技術を使って簡単な試作品の製作にかかりました。


THUNDERBEATの先端部

ところが、これが一筋縄ではいきません。何しろ、世界で初めてのデバイスを作ろうとしているわけですから、手がかりがないのです。組織を挟む棒の形状1つにしても大きな問題でした。単純な直方体の棒では組織を切れないのです。試行錯誤の末、最終的には、最適な山型の形状にたどり着きました。

ほかにも、どのような波形の高周波電流を流すのがよいのか、高周波電流と超音波振動は同時出力するのか否か、出力の強さはどのくらいがよいのかなど、試すべきパラメータ(変数)が多く、試行錯誤を繰り返しました。


超音波振動と高周波電気を同時、または選択的に出力するイメージ

そして、多くの時間を費やし、ようやく予想していた性能が出た時は、心底ほっとしました。米国のドクターに見ていただき、「Congratulations!(おめでとう)」と言われた時の喜びは忘れることができません。そこから、製品化まではさらに長い年月がかかりました。何度も試作を繰り返し、日・米・欧のトップクラスのドクターにアドバイスをいただきながら、製品化への詰めを行いました。

先端の形状にも独自の工夫

特に工夫が必要だったのは、先端部の形状です。組織をしっかりとつかんだり、はがしたりすることは、鉗子(かんし)として基本中の基本の機能です。何度もドクターの方々から"ダメ出し"をいただきながら、工夫に工夫を重ねました。噛み合う歯の形状も、先端側はより細かく刻むなど、滑りを防止するための加工を施しています。


THUNDERBEATの先端部

別の製品で採用した「ワイパージョー構造」も踏襲しました。これは、自動車のワイパーの構造を応用したものです。クルマのワイパーは、途中にピボット(軸)があるため、フロントガラスの曲面に合わせて、ゴム部分の角度が変わります。同様に、組織を挟む金属部分の途中にピボットを設けることで、先端と末端で厚みが違う組織を同じ圧力でつかめるようにしたのです。均一な圧力がかかることで、より安定した血管封止が期待できます。

1本のデバイスで多様な操作が可能

手術の動きというのは、(1)血管を封止する、(2)組織を剥離する(はがす)、(3)組織を把持する(つかむ)、(4)切開する、(5)出血時に止血する、というのが基本的なサイクルです。現状、ドクターはこのサイクルの中でデバイスを必要に応じて持ち替えながら手術を行っています。

今回開発したTHUNDERBEATは、これらすべての動作で、私たちが設定した通りの高い性能を達成しています。また、高周波電流と超音波振動の同時出力だけでなく、高周波電流だけの出力も可能ですので、切離はせずに止血だけを行うこともできます。したがって、1本のデバイスで手術に必要な動きがすべてでき、しかも高い性能を持っているため、ドクターは効率良く連続的に手術を行うことができます。これにより、手術時間の短縮など外科手術に大きく貢献できるものと考えています。