顧客ニーズにこだわる「防水カメラ」

カメラを防水に! 不可能とも思える潜在ニーズを実現する

1986(昭和61)年に発売された「AF-1」愛称「ぬれてもピカソ」は、小型・軽量に加え生活防水機能を世界で初めて備えた全自動コンパクトカメラです。当時、不可能とも思われた生活防水機能の確立が、みごとにお客さまの心をとらえ、ヒット商品となりました。

まさに「魁(さきがけ)のカメラ」は、生産現場に活力を与え、新しい"ものづくり"の技術を生み出す喜びを知らせました。防水技術は今に受け継がれ、水中撮影も可能な防水カメラへと進化しています。現在「防水カメラはオリンパス」といわれるようにもなりました。

カメラ、ICレコーダー、双眼鏡は、オリンパス(株)が所有・管理する製品ではなくなりました。2021年1月以降、OMデジタルソリューションズ(株)に移管され、販売されております。

使う立場からの発想が、製造現場の活気となる


「μ-720SW」(2006年)は水深3mでも撮影可能。オリンパス初の水中でも撮影可能なデジタルカメラ。

1980年代、カメラ市場はオートフォーカスカメラが主流になり、自動巻き上げ、フラッシュ内蔵など、自動化が進みました。このころ、オリンパスはコンパクトカメラでは世界初となる「生活防水」カメラ「AF-1」、愛称「ぬれてもピカソ」を誕生させました。

安心して使える生活防水は市場でも受け入れられ、その後のスタイリッシュカメラ「μシリーズ」に受け継がれ、さらには3m防水のデジタルカメラ「μ720SW」へと進化、発展してきたのです。

1986(昭和61)年の発売に向け「AF-1」の開発が進むと、カメラの主幹工場である辰野工場(現・長野オリンパス)では新製品導入説明会が開催されました。説明会は緊張感に包まれていました。

開発リーダーが工場スタッフの前で、自信に満ちた語り口で製品コンセプトを説明。「生活防水」の必要性を論じ、その機能を満足させるための技術課題を明確に提示しました。「全自動」「生活防水」「フルバリアタイプ」「低コスト」。顧客ニーズを的確に捉えた商品コンセプトと、それを実現する設計でした。


オリンパス「AF-1」(1986年)愛称「ぬれてもピカソ」世界で初めて生活防水機能を実現した全自動コンパクトカメラ。

「AF-1」は「ピカソ」の愛称で親しまれたオリンパス初の大容量リチウム電池を搭載した全自動カメラAFLの後継機種。AFLでオートフォーカス全自動コンパクトの主流市場に打って出たもののシェアを大きく伸ばすには至らなかっただけに、次の新製品は何としてもヒット商品にするという心意気が工場全員に行き渡っていました。

会議が終わると、工場スタッフは市場が望んでいるカメラになる製品だと確信しました。技術課題は山積していましたが、工場と開発が一丸となって挑戦しました。「OM-1」のように顧客ニーズを完璧に捉えた夢のカメラの再現を工場の誰もが確信したからこそ、"ものづくり"の現場が本気に燃えたのです。

あらゆる情報を収集し生活防水機能を確立

カメラにおける生活防水は「世界初」!すべてが初めて取り組む技術でした。時計メーカーや内視鏡の部門にもノウハウを聞き込みましたが、カメラにすぐ応用できるわけではありませんでした。カメラは、レンズ鏡枠周辺、フィルム交換部、電池交換部、操作部と防水すべき箇所が多数あったのです。

これらの防水機能を実現するには、ゴムパッキンやゴムスイッチの採用、窓部品の超音波溶着、そして防水評価技術等技術課題が山積していましたが、開発・製造部門の技術者は心躍らせ課題に挑戦しました。

カメラの構造として前カバー、後カバー、後ブタ、電池ブタを防水しなければなりません。そのためにはゴムパッキンが重要な部品です。防水ゴムが機能するためには、パッキンが入る溝がなくてはなりません。溝形状を作るために部品は金属ではなくプラスチック化が必要不可欠でした。

また、防水は部組み(ユニット)保証が基本で、最終的にはカメラ完成品のシャワー試験で保証していました。

部組みの一つである後ブタ組みでは、防水ゴムを後ブタの溝に固定するのに接着剤を使用しました。リワークができないため、作業は正確に行わなければならず習熟を要しました。ゴムがよじれたり、ゴムの防水面に接着剤が少し付いただけで水漏れしてしまうのです。

水漏れのチェックを行うため、自作の防水試験機も立ち上げました。あらゆる情報を収集し、試行錯誤の末に立ち上げたもので、オリンパス独自の防水評価技術の確立につながるものでした。


防水試験の様子。


「μ-10 DIGITAL」(2003年)メタルボディーのデジタルカメラでの生活防水は世界初。

夢の実現へ、外装部品を完全プラスチック化

プラスチック外装部品無塗装化はコスト目標達成のための要件であり、実現できなければ夢のカメラもできない。そんな気持ちを絶えず持ち続け、成型条件の変更、金型のシボ※1打ち直しを決して妥協することなく納得のいくものができるまで何度も繰り返し、やっと外観品質として堪えられるものができました。


「stylus TG-2 Tough」(2013年)防水15m、耐衝撃2.1mへ進化。さらに、コンバージョンレンズなどシステムアクセサリーを備える。

またウェルドライン(樹脂の合わせ目)についても、開発部門・製造部門が一丸となって、成型条件のみならず、流動性の異なる樹脂の採用や、ゲート※2位置の変更などあらゆる改善策を施してきました。こうして、外装部品のプラスチック化は「AF-1」を機に技術革新が進み多用化されるようになりました。

「AF-1」で培われたさまざまな防水技術は、その後のμシリーズに脈々と受け継がれメタルボディーのデジタルカメラでの生活防水、そして2013(平成25)年発売の、水深15mでも撮影可能な「stylus TG-2」など防水技術を着実に進化させ「防水カメラはオリンパス」といわれる不動の地位を築いているのです。

※1 シボ:金型表面にサンドブラストなどで微細な凹凸を施し、面粗さを均一化する。シボの粗さ、深さで色ツヤが変化する。

※2 ゲート:金型内に溶融樹脂を流し込む部分(湯口)。