新興国における医師育成支援

GOALS

急激な経済成長により、がんや糖尿病をはじめとした生活習慣病が増加しているアジアの新興国。
オリンパスは、日本の国際協力機関や学会とともに、オリンパスだからこそできる企業市民活動として、「内視鏡外科手術の医師育成支援」を行っています。

内視鏡外科手術は開腹手術に比べ体の負担が少なく、治療期間の短縮が期待できる高度医療の一つです。
この手術ができる医師が増えることで、多くの患者さんのQOL(Quality of Life)向上が期待されています。
日本の優れた医療技術やサービスを新興国に普及させることで、現地の健康水準の向上に寄与しようというこの取り組みは、国連が提唱する持続可能な未来に向け世界を変えるための17の目標「SDGs」における「目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」にも通じる活動です。
本特集では、2015年度から約2年にわたりタイで行われた活動を中心に、関わった人々の思いを通して、オリンパスの企業市民活動および国際協力の形を紹介します。

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS 世界を変えるための17の目標 目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

CSRトップメッセージ
医療事業を通じた知見により、新興国の医療向上に貢献する


北村 正仁
オリンパス株式会社
執行役員 CSR本部長

オリンパスは1950年に世界初の胃カメラを実用化して以来60年以上にわたって、内視鏡をはじめとした医療事業を続けています。内視鏡は誕生時からこれまで、医師や医療従事者のご意見をもとに開発・改良を重ねてきており、オリンパスが長く蓄積してきた世界各地のニーズや医療事情などの知見には、幅広く深いものがあると考えています。

当社は企業市民活動方針に「グローバル企業の責任として国際社会の課題解決に貢献する」「事業を通じて社会的課題の解決に貢献する」「自社の技術やノウハウを通じて次世代人材の育成に貢献する」という3点を掲げています。新興国における医師育成の取り組みは、この方針に基づくもので、医療事業で得た知見を活かしたオリンパスならではの企業市民活動であると考えています。

この取り組みは、学会や医師の先生方および、国際協力機構(JICA)や国立国際医療研究センター(NCGM)などの日本の国際協力機関、オリンパスの「学・官・産」が三位一体となって行えるものです。この協力関係をサポートできるのも当社の特長です。

当社は、新興国においても内視鏡外科手術を行える医師が増え、増加するがんなどの治療が患者さんの負担が少ない形で行われるようになり、人々の健康と幸せな生活の実現に貢献できることを願っています。

日本の国際協力機関の声
オリンパスの強みを活かした、新興国への展開と課題解決に期待しています


馬場 隆
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
民間連携事業部 連携推進課 課長
※ 肩書き・役職等はインタビュー当時のものです

先端医療や予防・低侵襲医療、人材育成の仕組み、公的医療保険制度など、日本で培われた技術・制度の海外展開は、新興国の医療水準向上という社会課題解決のためにも、日本の成長戦略のためにも有効と考えています。

国際協力機構(JICA)は、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関ですが、なかでも民間連携事業部では、日本の民間企業と連携して新興国に対する日本の技術・制度の海外展開を支援しています。連携事業を選定する際は3点を重視しています。第一に新興国側にニーズがあること、第二に日本の成長戦略につながるビジネスであること、第三にビジネスとして継続が可能であることです。JICAがオリンパスと連携して進めているタイやインドネシアでの内視鏡普及事業は、がんなどの生活習慣病の広がりを踏まえた現地のニーズがあり、オリンパスの製品に強みがあり、またオリンパスが両国に供給やメンテナンス・修理体制を整えているということが上記3点に合致していました。JICAは、この事業を通じて現地の医師の間で製品および安全使用についての理解が深まり、日本の医療機器の普及につながること、さらには患者のQOL(Quality of Life)向上と入院日数の削減などによる医療経済の効率化に貢献することを期待しています。

また、今回の連携事業では、現地医学会への啓発・教育などが盛り込まれている点で、製品普及の確度を高めるだけではなく、企業価値を高めることにもつながると考えます。すなわち、現地の医療水準全体の底上げにつながるような取り組みを行うこと自体が、ESG経営が求められる昨今、株主や社員、取引先、顧客など、幅広いステークホルダーの方々にも「懐の深い取り組み」として認識され、オリンパスに対する理解や評価にもつながり、ひいてはビジネスにも好循環をもたらす可能性があります。その意味で、新興国とオリンパス双方にとってWin-Win の関係が深まるよう、さらなる取り組みが続くことを期待しています。

タイにおける取り組み

内視鏡外科手術が、タイで増え続けるがん患者の新しい治療手段に

内視鏡外科手術の実技指導の様子

経済が急速に発展するタイでは、65歳以上の人口が全人口約6700万人の10%を占め、2030年には完全な高齢社会になるといわれています。一方、タイの死亡原因でがんは17%と2番目に多く、なかでも大腸がんは高齢化と食の欧米化などにより先進国と同様に増加しています※1。大腸がんは早期発見・早期治療で95%以上が完治するとされており※2、先進国では早期治療の方法として内視鏡外科手術(イラスト参照)が普及しています。内視鏡外科手術は、従来の開腹手術に比べ患者さんにかかる身体的負担が小さいことから患者さんのQOL(Quality of Life)の向上および、入院期間の短縮といった医療経済への貢献が期待できます。しかし、タイを含む新興国では、この手術方法の普及が遅れています。

内視鏡外科手術の実技指導の様子

このような医療事情を背景に、オリンパスが独立行政法人国際協力機構(JICA)から委託を受けて2015年度から実施しているのが、大腸がんに対する内視鏡外科手術の医師育成プログラムです。このプログラムでは、日本内視鏡外科学会から推薦された日本人医師が講師を務め、タイのマヒドン大学付属シリラート病院とチュラロンコン大学病院の協力のもと、2年間でタイの初級医師約100名および現地で指導者となりえる医師6名の育成を実施しました。

※1 出典:世界保健機関(WHO)2012/2014

※2 出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計'13」(2013年)


内視鏡外科手術の実技指導の様子


新興国医師育成支援における日本の産官学連携


内視鏡外科手術の例

委託元 独立行政法人 国際協力機構(JICA)
協力 日本:大分大学医学部
タイ:マヒドン大学付属シリラート病院/チュラロンコン大学病院
実施期間 2015年6月~2017年5月(2年)

新興国の医師育成には「学・官・産」の協力が必要です


猪股 雅史
大分大学 医学部
消化器・小児外科学講座
教授

私はJICA主催の内視鏡外科手術医師育成プログラムの講師として、2年間でタイの医師約100名に対し研修を行い、現地で指導者となりえる6名の医師を育成しました。新興国において医師育成を成功させるためには、受講する医師や国の医療事情に合わせたプログラムの質、指導する医師の質、プログラムを実施するための環境とサポート体制の3 つが重要です。これらは「学・官・産」の協働によって実現したと思います。プログラムについては講義と実技指導を行うなかで、受講する医師の経験やスキルを見ながら内容を進化させていきました。指導医の質は、日本内視鏡外科学会の認定医およびタイの学会が選ぶ医師たちが担当することで高いレベルを実現しました。また、医師が医療技術を学ぶには多額の費用が障壁となりますが、このプログラムではJICAを通して日本からのサポートを受けました。さらに、医療技術を学ぶためには場所や機材のサポートも必要ですが、これをタイのシリラート病院とチュラロンコン大学病院、オリンパスが支援してくれました。特に実技トレーニングにおいては、その国の手術現場の事情を熟知し現地医師とのコミュニケーションに長けた現地スタッフと、日本の指導医をサポートし現地スタッフと連携できる日本のスタッフが必要です。これをJICA の委託を受けたオリンパスが担当したので、非常に助かりました。

国と国をつなぐ大きなプロジェクトですが、強くやりがいを感じています。今回育成した医師が経験を積み、今後は彼らが育成する側に回り、タイには内視鏡外科手術ができる医師が増えていくでしょう。そして、患者さんは負担の少ない手術を受けられる機会が増えるようになる。とてもよい取り組みだと感じています。

タイの講師・受講生の声

Pawit Sutharat

私はこれまでに日本に留学して内視鏡外科手術を学んだほか、JICAの本トレーニングにも数回参加し、基本的な知識から高度な技術、テクニックまで多くを学んできました。そして今回初めて講師としてこのトレーニングに参加できたことを光栄に思っています。これからは日本の先生方から学んだ、患者さんの体の負担が少ない内視鏡外科手術の普及に貢献したいと思います。そしてこの手技が今後グローバルスタンダードになっていくことを期待します。

Pawit Sutharat, MD
Department of Surgery, Faculty of Medicine, Chiangmai University
Assistant Professor


Teeranut Boonpittanapong

私は本トレーニングコースに5回参加しました。内視鏡外科手術における大腸外科分野では、日本は間違いなく世界トップクラスです。プログラムは基本知識や手術器具の使い方の講義からハンズオントレーニングまで網羅され、非常に有用だと思います。臨床現場で生じた疑問について、答えをこのトレーニングコースで見つけることができました。

Teeranut Boonpittanapong, MD
Faculty of Medicine, Prince of Songkla University,
Department of Surgery Assistant Professor in Colorectal Surgery


Ekkarin Supatrakul

本トレーニングコースは、実技の前に解剖学やテクニックについて講義で詳しく学ぶことができ、非常に興味深いものでした。このコースに過去2 回参加するなかで、自身のスキルが向上したと感じています。次回は、私が手術現場で担当した症例を講義のなかで発表して、講師や他の受講者とディスカッションしてみたいと思います。

Ekkarin Supatrakul, MD
Department of Surgery, Faculty of Medicine, Chiangmai University

医師育成支援活動を支えるオリンパスのスタッフたち

日本とタイの連携で患者さんのQOL 向上に貢献します


山田 貴陽
Head of GIR Business,
Asia Paci f ic Medical Sales Division,
Olympus Corporation of Asia Pacific Limited

私は日本で内視鏡の営業を経験した後、Olympus(Thailand)Co., Ltd. の医療営業統括を7年間経験しました。タイのスタッフは、明るく真面目で医療の仕事に誇りを持って働いています。日本の医師がタイの医師に医療技術を正確に伝えるには、言葉や医療現場における習慣の違いを理解し合うことが重要ですが、これをタイのスタッフが適切にサポートし、医師から絶大な信頼をいただいております。

オリンパスは長年にわたり「安心・安全」な内視鏡医療の普及に努めており、そのDNAは、海外現地スタッフにも引き継がれていると実感します。内視鏡医療を日本の「学・官・産」の力で伝え、新興国の医療向上に貢献し深く関われることは、オリンパスならではのチャレンジであり強みです。この強みを活かして、タイ以外の新興国でも医療向上や患者さんのQOL向上に貢献できるよう、現地スタッフとともにチャレンジし続けたいと思います。

タイの医療発展に貢献できることを誇りに思います


Patcharee
Boonmee

Medical Affairs Manager
Olympus (Thailand) Co., Ltd.

2004年にOlympus(Thailand)Co., Ltd. に入社以来、一貫して医療事業に携わってきました。現在の私の仕事は、医療従事者に対するトレーニング、ワークショップ、イベントの企画・運営を通じて、オリンパス製品の適切な使用を広めることです。オリンパスの製品は、世界中の医療従事者の方々と協業しながら、最先端の技術によって開発されています。しかし、正しく使っていただくためにはトレーニングが欠かせません。トレーニングの運営を通じて、タイの若手医師の技術向上に貢献できることは、非常にエキサイティングです。タイでは内視鏡外科手術を行える医師が不足していることから、依然として開腹手術が一般的ですが、このトレーニングによって内視鏡外科手術が普及すれば、タイの人々のQOL向上が期待できます。トレーニングに使用する機材の準備など、日本の先生方のご要望すべてにお応えするのは簡単な仕事ではありませんが、講師と受講生の双方に満足いただけるよう、情熱を持ってきめ細かなサポートをするよう常に心掛けています。

この活動が新興国の医療水準向上につながることを願っています


宮本 大輔
オリンパス株式会社
CSR推進部 国際貢献グループ

経済学を専攻していた学生時代にアジアの新興国を訪れ、先進国との経済格差を目の当たりにしました。そこで新興国の社会経済開発に携わることができる会社で働きたいと思い、オリンパスに入社しました。医療事業の海外営業や企画管理などの業務を経験した後、2015年にタイとインドネシアにおける国際貢献の担当となりました。この支援業務には、日本と現地双方の関係者とのコミュニケーションと、現地で臨機応変に動ける判断力が必要です。海外では思うように仕事が進まないことが往々にしてありますが、現地や日本の先生方の熱意に触れると、前進する意欲がわきます。また、当社の現地スタッフの高いモチベーションにも日々刺激を受けており、活気あふれる新興国での仕事に醍醐味を感じます。この2 年間の活動が新興国の医療水準と現地の人々のQOL 向上につながることを願うとともに、尊敬する経済学者の言葉「cool head, but warm heart」を胸に、今後も業務に取り組みます。

Column 新興国各国における取り組み

医師育成プログラム

インドネシア

世界第4位・約2億5500万人※1の人口を持ち、継続的な経済成長を維持しているインドネシアでは、医療サービスへのニーズが高まっています。インドネシアの死亡原因でがんは13%と2番目に多く、なかでも泌尿器系のがん(前立腺がん、膀胱がん、腎がん)は男性死亡原因の第2位※2であり、罹患率も周辺諸国より高い病気となっています。
このようなインドネシアの医療事情を背景に、オリンパスは、独立行政法人国際協力機構(JICA)の委託を受け、日本泌尿器内視鏡学会とインドネシア泌尿器学会の協力のもと、泌尿器系のがんを対象とした内視鏡外科手術の医師育成プログラムを実施しました。

医師育成プログラム

この活動をきっかけとして、患者のQOL(Quality of Life)の向上および、入院期間の短縮などが期待できる内視鏡外科手術が普及し、医療環境改善に貢献できることを期待しています。

※1 出典:インドネシア政府統計(2015年)

※2 出典:世界保健機構(WHO)2012/2014

委託元 独立行政法人 国際協力機構(JICA)
協力学会 一般社団法人 日本泌尿器内視鏡学会/インドネシア泌尿器学会
協力病院 Cipto Mangnkusumo National General Hospital(ジャカルタ)
実施期間 2015年11月~2017年10月(2年)


医師育成プログラム

ベトナム

経済成長にともなう生活習慣の変化により、ベトナムの疾病構造は寄生虫や細菌などによる感染症から、がんや心筋梗塞などに代表される非感染症へと変わりつつあります。ベトナムの死亡原因でがんは18%と2番目に多く、がんのなかでも胃がんによる死亡者数は14%で3番目に多い状況にあります※3

医師育成プログラム

このようなベトナムの医療事情を背景に、オリンパスは、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)の委託を受け、日本内視鏡外科学会とベトナム内視鏡外科学会の協力のもと、胃がんに対する内視鏡外科手術の医師育成プログラムを実施しました。
この活動をきっかけとして、入院期間の短縮および投与薬剤の削減などが期待できる内視鏡外科手術が普及し、医療環境改善に貢献できることを期待しています。

※3 出典:世界保健機構(WHO)2012/2014

委託元 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(NCGM)
協力学会 一般社団法人 日本内視鏡外科学会/ベトナム内視鏡外科学会
協力病院 Viet Duc University Hospital(ハノイ)/University Medical Center(ホーチミン)
実施期間 2016年8月~2016年12月(5カ月)