ボツワナの湿地帯に生きる野生動物を求めて岩合 光昭

インタビュー:2019年8月14日/公開日:2019年11月14日

岩合 光昭 Mitsuaki Iwago

1970年に訪れたガラパゴス諸島で、自然の圧倒的なスケールに触れ、動物写真家としての道を歩き始める。日本人写真家として初めて『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度にわたって飾るなど、想像力をかき立てるその写真は世界中で高く評価されている。2012年からテレビ放送されている『岩合光昭の世界ネコ歩き』も大好評。2019年2月には『ねことじいちゃん』で映画初監督。近著は、その映画に主演したネコをモデルにした写真集『吾輩はねこである 名前はベーコン』(クレヴィス)。

広大な湿地帯オカバンゴ・デルタ

動物写真家・岩合光昭氏が30年ぶりにアフリカ南部のボツワナを訪れました。撮影地は、オカバンゴ・デルタとチョベ国立公園。前者は世界自然遺産にも登録されている世界最大の内陸デルタ、後者は世界中で最もゾウの生息密度が高いといわれるゾウの楽園です。湿地帯に生きる動物や鳥類の美しさ、自然の中で生きる厳しさについてお話をうかがいました。

編集委員

これまでにもボツワナに行かれたことはありますか。

岩合

2回行ってます。前回はもう30年以上前ですが、今回行ってみて、この地域の自然や動物が何十年たっても変わっていないことに喜びを感じました。

編集委員

北部にあるオカバンゴ・デルタはユニークな土地ですね。雨季には上流のオカバンゴ川が氾濫して湿地になるということですが、乾季になると水は蒸発したり地面にしみ込んだりして内陸部で消失するそうですね。スケールの大きさに驚かされます。

岩合

雨季が始まると、上流からの水がじわじわと溢れ出します。雨季の最中にどんどん水位が上がって、全体が海のようになります。雨季が終わってもしばらくはその状態が続くので、乾季の始まりは緑が濃いんです。ところが、あるときからものすごいスピードで乾いていきます。今回は乾季の真っ盛りだったので、昨日までそこでキリンが水を飲んでいたのに、今日はもう水がないということもありました。

プライベートキャンプが保障する撮影の自由

編集委員

オカバンゴ・デルタはプライベートキャンプでの撮影だったということですが、国立公園で撮影するのとは違いがありますか。

岩合

いま世界中で自然に興味を持たれる方が多くなって、自然観察ツアーが増えています。そこで国立公園では何時までにゲートを出なくてはいけないとか、車は道から外れてはいけないとかいうように、ルールがどんどん厳しくなっています。動物を守るために必要なことですが、撮影を考えるともう少し動物に近づきたいと思うこともあります。

プライベートキャンプにはそういう制約がまったくありません。というのは、お客さんを1日に4組か5組に限定しているからです。国立公園とは違って、日の出や日の入り前後の時間帯も滞在できます。そのおかげで、今回はリラックスした動物の姿をたくさん見ることができました。

編集委員

このキリンの写真は、水がはじけて、いかにも湿地という感じがします。どんな状況だったのですか。

岩合

オスのキリンが2頭いました。ネッキングという首と首をぶつけ合うプレイファイトをしていたのですが、そこにゾウの家族がやってきて押し出されるようになりました。それで1頭が「何だよ!」という感じでそこを離れたら、もう1頭が追いかけ始めて、最初の1頭が水場に逃げ込んできたんです。これだけキリンが高く足を上げるのは珍しいですね。

編集委員

こちらのインパラには、色鮮やかなたくさんの鳥が乗っていますね。

岩合

アカハシウシツツキです。インパラの体に付いた虫を食べています。インパラの群れでも、ウシツツキがたくさん止まる個体とまったく止まらない個体がいます。人間でも汗をかきやすい人とそうでない人がいるように、虫が付きやすい個体とそうでない個体がいるんですね。

編集委員

ウシツツキは自分たちの食べ物である寄生虫が生きられるように、かさぶたがあるとわざと突っついたりもするそうですね。

岩合

インパラが傷口を突っつかれて痛がっていることもあります。だから、よく「共生」といわれるんですけど、共生っていったいどういう言葉なんだろうと思います(笑)。ぜんぜん、共に生きていないですよね。

ライオンの狩りに見た自然の厳しさ

編集委員

自然の厳しさを感じさせる狩りの作品もあります。ライオンに食いつかれたヌーの目が悲しげで、ついヌーの方に感情移入してしまいました。

岩合

不思議ですね。撮っているとき、確かに僕はファインダーからヌーを見ていました。見ている人にも、その撮影者の目が見えてくるのでしょうか。撮影者がどこを見て、どういう感情で撮っているのかが写真に写り込むのですね。

ネコの写真もそうです。写真展でお客さんに「写真、よかったわねえ」と言われるのは、だいたい撮っているときに僕がネコに強く感情移入しているときの写真です。皆さん、鋭いなあと思います。野生動物の写真ではそういうことはあまりないのですが、やはり伝わることがあるのですね。

編集委員

この日はもともと狩りを狙っていたのですか。

岩合

いえいえ、ただライオンを撮っていたんです。ライオンを見ていて、どうもお腹が空いているみたいだなと感じました。ヌーの群れを見ている感じが普通と違ったので、これは行くかもしれないと。そこで、しばらく粘ることにしました。日が暮れて、ヌーの群れが林に入っていきました。違う向きからライオンが数頭林に近づいていったので、ああ、これは行くと。それでドライバーに頼んで林のところに車を寄せてもらいました。すると、ヌーがこちらに戻り始めて、あっ、と思った瞬間、林の近くで1頭のヌーがつかまりました。一瞬でも早いタイミングで行きたくて、ドライバーに「行けー」と叫びました。ドライバーも、次に何が起こるか分かっています。そして、この2頭目がつかまりました。それで車が止まった瞬間からシャッターを切っています。

編集委員

かなり近いですね。

岩合

7、8メートルくらいでしょうか。ライオンは食いついたヌーを放したくないから、そこから動くはずがありません。ライオンは喉笛をかんで息ができないようにして、窒息死させます。それで息をしなくなったら、ぱっと放すんです。

研究者の方は、ライオンはチームワークで狩りをするといいますが、狩りを見ていると本当にそうなのかなと思うことがあります。ライオンは1頭1頭がそれぞれ食べたいという意識を持っている。先頭を行くライオンの様子を見て、あいつよりいいところがあるんじゃないかと思って別の獲物に向かう。それが、外から見るとあたかも連係プレーのように見えるんじゃないかと。それはネコ科の動物の特徴ではないかと僕は思います。だから集団で狩りをしているといっても、ドジを踏むときはあっけなくドジを踏みます。

今回、40頭という大集団のリカオンも見たのですが、彼らの狩りはまったく違います。鳴いてコミュニケーションを取りながら進むのです。狩りの成功率もものすごく高い。それは彼らがイヌ科の動物だからだと思います。

動物の自然な動きの中に美しさがある

編集委員

こちらのヒョウは歩き方がとても優雅ですね。

岩合

本来、ヒョウはとてもシャイな動物なのですが、このヒョウは自分を見せたいという珍しいヒョウでした。木に隠れてこちらを見ているので、これは慎重にしなくてはいけないなと思っていたら、ひょっと出てきて、どんどん近づいてきました。

編集委員

ヒョウは夜行性だと思います。明るい時間に撮れたのはラッキーだったのですか。

岩合

いや、ヒョウは昼間も動きます。夜行性、昼行性という分け方がありますが、それほど明確なものではないと思います。夜行性といわれる動物でも必要があれば昼間動きます。チーターは昼行性といわれていて、確かにメスは夜には動かないけれど、オスは夜でも動きます。

動物についていろいろ書かれているものがありますが、ライオン1つとってもごく限られた人が自分の見たライオンのことを書いているわけです。それが本当にライオンかというと、どうかなと思うことがあります。確かなのはその場で起きていること、自分が見ていることなので、皆さんもお一人お一人が感じることが一番大切じゃないかなと思います。

僕が珍しい動物にあまりこだわらないのはそこです。よく知っている動物にも、知らない部分がたくさんあります。そんな意外な面に出合う方がかえって面白いのではないかと思います。

編集委員

動物を撮るとき、どんな姿を撮ってあげたいと思いますか。

岩合

美しさですね。僕は動きの中に美しさがあるのではないかと考えています。もし僕がファッションを撮ったら、モデルにどんどん動いてもらって、モデルが止まらない写真を撮るんだろうと思います。動物の自然な動きの中に、その個体が持っている美しさが出てくる。それが命というものではないかと思います。

文:岡野 幸治