「外科手術の未来」
- Information Rich

AI/ICTを活用し、エキスパートの暗黙知をデジタル化し、手術ステップに応じた情報制御を実現。
外科医の「目」や「思考」に必要な情報を、適切なタイミングで提供し、未来の外科手術を支援します。

このページには腹腔鏡下手術およびロボット手術の画像が掲載されています。このため画像をご覧になったときに精神的なストレスを感じられる方がいらっしゃる可能性があります。ご自身の判断にてご覧いただきますようお願いいたします。

医療サービスは量から価値へ——すなわち医療を受ける国民の価値を最大化するValue Based Healthcareへの転換が求められています。例えば、外科手術に限ってみたとき、誰もが求める価値は安全性です。それは合併症の低減、または再手術の回避に置き換えることができます。これらが達成されたとき、手術後の入院日数の短縮も期待されます。

これまで外科手術の分野では、安全かつ効率的な手術に向けて大学研究機関や医療機器メーカーが多くのイノベーションに取り組んできました。ここ数十年で達成された手術に関するイノベーションは3つの段階に分けられます。最初のイノベーションは腹腔鏡下手術の開発でした。従来の開腹手術に代わり、腹部に開けた数箇所の小さな穴から、内視鏡、鉗子、電気メスといった様々な機器を挿入し、手術を行います。開腹手術に比べて患者さんへの負担が少なく、低侵襲な治療と考えられています。

第2段階では、それを受けて多くの持続的イノベーションが続きました。外科医の目としての内視鏡はハイビジョンから4Kへと高精細化し、機器の位置把握に力を発揮する3D観察、リンパ節や血流といったダイナミックな変化を観察できる赤外蛍光観察も実用化されました。一方、外科医の手としては、エネルギーデバイスと呼ばれる治療機器が大きく進化し、すばやい組織の切開と同時に出血を回避するため組織を接合するという、相反する行為の同時操作が可能になりました。

第3段階ではシステムの統合が進み、複数の機器を同じ端末から操作できるようになりました。これによって、手術スタッフの作業効率化とヒューマンエラーの防止が期待されます。また、ロボット手術の技術が進み、先端が自由に曲げられる関節を持つマニピュレーターを外科医が専用端末から操作できるようになりました。これによって、外科医が鉗子や電気メスなどを直接操作するよりも安定し、より精密な機器のコントロールが実現しています。

複数の機器を同じ端末から操作

ロボット手術

しかしながら、我々はまだ手術イノベーションのゴールには到達していません。Information Rich——。我々はこれから達成すべきイノベーションとして、このコンセプトを提唱します。それはICT(情報通信技術)、AI(人工知能)技術が可能にする新しい世界です。ここでは、より具体的な姿をイメージしていただくため、2つのアイデアを示します。

まずは、熟練した外科医の知識の共有です。外科医は経験により、より正確な組織切開を会得すると言われています。手術時には様々な状況を総合的に判断し、組織の切開ラインを頭に描いているはずです。これら経験により会得された知識は一般的に「暗黙知」と言われています。この暗黙知をデータ化できれば、熟練の外科医の知識を多くの外科医に比較的容易に引き渡せるはずです。

その道筋は次の通りです。まず経験豊富な多くの外科医による手術画像を収集します。そして各場面でどのように切開したのか、その切開ラインをデータに変換します。これらを学習データとし、状況に応じた正確な切開ラインを描画できるようニューラルネットワークをトレーニングします。この学習済みニューラルネットワークはAIとして機能します。外科医が組織を切開する場面において、AIはそこまでの状況を画像データとして読み取り、その場面において最適と考えられる切開ラインをモニター上に提示します。外科医は、これを参考情報として読み取り、組織の切開を進めます(大分大学の猪股教授のグループとAMEDプロジェクトとして研究を推進中)。

もう1つのアイデアは、手術ステップに応じた情報制御です。多くの手術は、その手順が標準化されており、細かいステップに分割できます。外科医は各ステップにおいて、術前に撮影されたCT画像や各種の検査データ、治療歴など、非常に多くの情報を必要とします。手術ステップによって必要な情報が異なるため、現状では外科医がスタッフに口頭で指示して必要な情報を入手するか、多くの情報モニターを手術室に設置し、それを交互に見るしかありません。

もし、システムが手術の進行状況を理解できれば、もっと効率的な情報提示環境を提供できるはずです。キーとなるのがAIの活用です。手術ステップを理解できるよう最適化されたAIが、いま手術がどのステップに到達しているのかを判断します。そして、AIから指示を送られた情報制御システムが、そのときに外科医が必要とする情報をメインモニターに適切に配置した上で提示します。

こうしたアイデアを実現するには、異なるメーカーの医療機器が接続され、機器間で情報をやりとりすることが不可欠です。それにはIoT(機器同士のネットワーク接続)環境の標準化、AIを実装するための医療情報の収集と活用基盤の整備、AI機能を医療機器として市場に投入するための認証や承認のガイドライン整備など、多くの課題が立ちふさがっています。

これらは一企業で解決できる課題ではありません。しかし、もし多くの人がビジョンを共有できれば、新しい手術イノベーションの実現に向けて共に歩むことができるはずです。一般的には、診断機器に強い一方で治療機器には弱いと言われている日本の医療機器産業の現状を考えたとき、まさにいまこそ産官学が連携し、日本の総合力を発揮する絶好のタイミングであると確信しています。

まだ見ぬ世界を、世界とつくろう。

イノベーション推進室がX INNOVATION(クロスイノベーション=共創)を推進してまいります。ご意見・ご提案・お問い合わせ等がありましたら、ぜひお聞かせください。