外科領域におけるイノベーションの取り組み

これまで外科手術のイノベーションは、手術の在り方を大きく変貌させてきました。開腹手術に比べると患者さんの体に負担が少ない低侵襲な腹腔鏡下手術が開発され、それに合わせてイメージング機能や、切開と止血を行う処置具などが進化しました。また、手術室に置かれるさまざまな機器を1つの端末から制御できるようにシステムの統合も進みました。さらに、ロボット技術の進歩により、処置具は精密にコントロールできるようになりました。

しかし、イノベーションが終わりを告げたわけではありません。我々は、次に来るべきものをInformation Rich(インフォメーション・リッチ)というコンセプトにまとめました。そこでは、機器同士をネットワークでつなぐIoTを基盤に、AI(人工知能)が積極的に手術に関与していきます。キーワードは、コネクティビティと情報支援です。

我々は、このコンセプトを実現するプラットフォームの開発を進め、プロトタイプ(試作機)※ も出来上がっています。それは複数の機器で構成されますが、各機器は独立して動くのではなく、データを交換しながらプラットフォーム一体となって機能します。

医薬品医療機器等法未承認品


Information Rich: AI外科医の目や思考に対して、手術に必要な情報を適切なタイミングで提供し支援するコンセプト

具体的な姿は、次の通りです。表示装置は、主治医用のメインスクリーンと看護師用のサブスクリーンで構成されています。医師と看護師が入室すると、システムが個人デバイスのIDを読み取って個人認証し、準備のための情報を表示します。医師と看護師はシステムと対話しながら、安全確認を行います。


Autonomous View Control: 見るべきものを見えるように

術野を映し出すスコープは自動制御アームに装着されています。現行の手術ではスコープは執刀医とは別の外科医が操作していますが、このシステムではAIが手術の状況を認識して、トロッカー(お腹に空けた穴に挿入した筒状の器具)から体内に自動挿入し、体腔内を見渡します。医師が別の穴から鉗子を挿入すると、スコープの視野は鉗子に追従し、体腔内を映し出します。任意の範囲を鉗子で指定して音声で指示すると、その範囲が拡大表示されます。このような“見るべきものを見えるようにする技術”を、我々はAutonomous View Control(オートノマス・ビュー・コントロール)と呼んでいます。


Intraoperative Image Navigation: 見えないものを見えるように

また、スコープの画像は3DCGと連動し、AR(拡張現実)の技術を使って腫瘍の位置、血管、切断面、切断後の血管などの情報を重ね合わせて表示します。CTや超音波画像が必要な場合、医師が指示すると、それまでに撮りためた画像から鉗子の位置に応じてAIが適切な画像を選び、内視鏡画像に重畳表示します。臓器から出血した場合は、システムが出血点を検出して表示します。出血時の状況を把握するために、直前までさかのぼった記録画像も表示できます。このように“見えないものを見えるようにする技術”を、我々はIntraoperative Image Navigation(イントラオペレイティブ・イメージ・ナビゲーション)と呼んでいます。


Decision Making Support: AIが意思決定の手助けをする

AIは、計画された手術のどの段階に位置しているのかを認識しています。そして、場合によっては合併症を予測して、予定したルートを変更することを提案します。このように“AIが意思決定の手助けをする技術”を、我々はDecision Making Support(デシジョン・メイキング・サポート)と呼び、その実現も視野に入れています。

システムは、手術中にワークレコードを随時生成して表示しています。その情報は、術後の経過情報と合わせて分析されます。そして、将来のより安全で均質な手術の実現に貢献します。

このプロジェクトは、日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて、その進行を加速させようとしています。プロジェクトは、「情報支援内視鏡外科手術システム」「自律制御内視鏡システム」「自律制御処置具システム」の3つのパートに分かれ、国立がん研究センター、大分大学、東京大学、福岡工業大学と連携してプロジェクトの実現を図っていきます。

このシステムは、言うまでもなく手術の品質、すなわち安全性の向上を目的としています。ところが、国内外で300人以上の外科医にヒアリングをする中で、それ以外の新しい価値に対する期待も高いことが分かってきました。それは経営的な側面です。国内では60%以上の病院が赤字といわれています。利益貢献が求められる手術部門で、コストを抑えてどう効率化を図るかは喫緊の課題です。我々のシステムは、手術のプロセス、使用されたデバイスなどをデータとして逐一把握できる姿を想定しています。それはすなわち、コストがすべて“見える化”されるということです。それを基に運用を改善することで、コスト抑制と効率化という新しい価値を創出できる可能性があるのです。

現在のプロトタイプは、これから成熟させていかなければならない機能も多く、機能の一部にはモックアップレベルのものもあります。ただ、進化の方向性や実現のためのアプローチは、我々の中で明確になっています。ご協力いただける関係機関、企業の皆さんとともに、このプラットフォームが医療に貢献できる姿をイメージしながら、開発を進めていきたいと考えています。

まだ見ぬ世界を、世界とつくろう。

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