検査におけるイノベーションの取り組み

現代社会ではライフサイエンス、ヘルスケア、製品生産、インフラ保守など、さまざまな分野で検査が行われています。それぞれの場面で、高い識見とスキルを持つ専門家の方々が、検査機器を用いて業務を遂行しています。こうした検査の領域で、各分野に共通の課題があると我々は認識しています。それは、専門家の減少と検査難度の高まりです。この2つが相まって、実際に検査を担当する専門家の負担が高まっています。

このような環境の変化に応じて、現場のニーズは大きく変わりつつあります。つまり、より良い検査機器が欲しいということよりも、専門家の負担を減らしながら検査の工程全体を効率化したい、全体の付加価値を上げていきたいというニーズが高まっているということです。こうしたニーズにIntelligent Sensing(インテリジェント・センシング)という新しいコンセプトでどのように応えていけるか、我々は日々考えを深めてきました。

まず、イメージセンシングのデジタル化が起点になります。それにより、専門家の判断結果を機械に教え込むことで、AI(人工知能)が専門家の判断を一部代替できるようになります。これは、専門家の育成に必要な教育の効率化を含めて現場の負担を軽減することにつながります。

さらに、専門家の判断ルールを機械に教え込ませ、ルールを構成する中間情報をエビデンスデータとして抽出することを考えます。そうすると、工程の結果を表すデータと判断ルールのエビデンスデータとを突き合わせることにより、検査自体を客観的な定量データに従って最適化することができると考えます。加えて、そこに原理の異なる複数の検出手段を統合したマルチモーダルなデータを活用することも可能になります。こうしたアプローチによって、工程全体の効率化、高付加価値化が図れると考えています。

実際に取り組みを進めている事例として、顕微鏡を用いる臨床医療の分野から「病理診断」と「不妊治療」の2つをご紹介します。

病理診断は、病理医の先生が確定診断を行う診断分野です。臨床医は病変であることが疑われる生体組織を採取しますが、それはスライド標本にされ、病理医が顕微鏡でそのミクロの構造を観察することにより確定診断を行います。それを受けて臨床医は最終的な治療方針を決定します。病理医は正確な治療を行うための重要な役割を担っており、検査という観点で見るならば、疾病に対して広範囲の高い知見とスキルを持った専門家ということができます。

他の分野と同様に、この領域でも高度な専門家である病理医の減少は世界的な課題として深刻化してきています。加えて、遺伝子レベルの情報を利用する「個別精密医療」に対する要求の高まりと技術の進歩は、病理医に対して新たな検査試薬や検査方法への対応を求めることになり、その負担は増加しています。

こうした現状に対して、オリンパスでは国立病院機構呉医療センター・中国がんセンターとの共同研究で、AIによる病理画像診断支援ソフトウエアの開発を進めています。この研究では、「この画像のこの部分ががんである」という専門家の判断結果を機械に学習させるアプローチをしています。

研究を進める中で大きな課題も見つかりました。それは、病理標本を作成するための染色、デジタルスキャニングという工程において標本にばらつきや偏りが発生することがあり、それによってAIの診断結果が安定しないことです。そこで、専門機関ではデジタル病理画像の標準化に関するディスカッションが始まっています。さらに、長期的な視点でICT(情報通信技術)やAIを活用したデジタル病理の将来の姿を描くためのディスカッションも学会で始まっています。オリンパスは、デジタル病理を現場に浸透させ、この分野が抱える社会的課題を解決に導くために、そのような機会に積極的に参画しています。

次に、不妊治療の共同研究についてです。晩婚化によりお子様に恵まれない家庭が増えているという背景もあり、国内で不妊治療を受けられる方が急増していますが、これは世界的な傾向でもあります。顕微授精は生殖補助医療の一手法で、精子と卵子を体外に取り出し、顕微鏡下で卵子に精子を注入して授精させます。オリンパスでは、東京慈恵会医科大学との共同研究を開始し、AIを活用することによってこの顕微授精をサポートする試みを行っています。


ニュースリリース(2019年3月8日)精子判別補助AIの開発により顕微授精作業の負荷軽減と均質化を目指す


オリンパスが提供する倒立顕微鏡 顕微授精システム「IX3-ICSI/IMSI」


顕微授精作業において卵子に精子を注入する様子

この研究では、判断ルールを機械に教えるというアプローチを採っています。すでにどういう精子の受精率が高いかはある程度判明しています。そこで精子の形態や運動性などを定量計測して総合的に評価し、受精率が高いと予測される精子を判別する基準をAIに学習させています。それと実際の受精率を照らし合わせることによって精子選別のロジックを定量的に進化させることを試みているのです。

今回は臨床医療分野におけるイノベーションのご紹介となりましたが、専門家による検査が行われる多くの分野において、同様な社会問題が顕在化してきています。それらの解決には、目指す姿を共有する方々とのオープンなマインドによる協業が不可欠であり、皆様とともにその実現を図っていきたいと考えています。

まだ見ぬ世界を、世界とつくろう。

コラボレーションのご提案をぜひお寄せ下さい。