1枚の写真を
じっくり撮ってもらえる
カメラにミラーレス一眼カメラ
OLYMPUS PEN-F

1963年、歴史に残るカメラが誕生しました。ハーフサイズの一眼レフPEN-Fです。それからほぼ半世紀、かつての名機と同じ名前を冠したミラーレス一眼OLYMPUS PEN-Fが誕生しました。一世を風靡したフィルムカメラとどこか似た佇まいを見せる現代のPEN-F。しかしそのデザインは決してフィルム時代のPEN Fをデジタルに焼き直したものではありません。PEN-Fはどんなカメラなのか、そのコンセプトをどのように形にしたのかを解き明かします。

カメラ本来の楽しさを提供したい

1枚の写真をじっくり楽しみながら撮ってもらえるカメラを作りたい——。それがPEN-Fの開発スタート時のコンセプトです。シャッターを切ったときに吹いていた風や、聞こえていた音、空気感までもが写真に残る。そんな写真を撮る楽しさを提供できるカメラを求めました。
このカメラはフィルム時代のPEN-Fを復刻したものではありません。当初は、製品名も決まっていませんでした。PEN-Fの名を冠することになったのは、PENシリーズのフラッグシップ機として特別な名前を付けるのが相応しいと開発中に確信したからです。
しかしデザインの側面から見ると、PEN-FはかつてのPEN-Fの影響を受けています。というよりも、2009年にデジタルでPENシリーズの1号機E-P1を発売したときから、いつもデザインの起首としてPEN-Fがあるのです。かつてのPEN-Fは、世界初そして唯一のハーフサイズ一眼レフという新しい発想に満ち溢れたカメラでした。持ち運びしやすく使いやすく親しみやすさもあります。そんなオリジナルPEN-Fの思想をかみ砕いて、それを現代のデジタルで再構築しているのがPENシリーズなのです。

カメラらしさを強く意識したフォルム

フィルム時代のカメラは、軍艦と呼ばれるトップカバーにシャッターボタン、ダイヤル、巻き戻しノブなどのパーツが配置されていました。PEN-Fでは、歴史や普遍性を感じさせるように、こうしたトラディショナルなカメラのスタイルを強く意識しています。
PEN-Fのトップカバーは微かに傾きを持っています。真正面から見ると僅かな撫で肩、真上から見ると中央部に厚みがあり、特にシャッターボタンがある側は端に行くにつれて絞り込まれるフォルムを持ちます。これはフィルム時代から連綿と続くPENシリーズの特徴です。完全な平面だけで作ったカメラは単調な印象が拭えませんが、PENシリーズにはカメラに個性的な表情があります。

最近のカメラはホールド性を増すため、右手で握る部分の本体前面に張り出したグリップを取り付けるのが一般的です。しかしPEN-Fでは趣味性をより強く打ち出すため、敢えてグリップの無いカメラ本来の姿にしています。ただしそれによって落下の危険が増すことは避けなければなりません。そこに新しい発想で切り込んだのが、背面のサムレストです。つまり親指がかかる位置を凹ませて、親指側でしっかりとカメラを掴めるようにしています。ただしカメラにとってこの場所は一等地。通常は様々な内部機構が入ります。そこで内部機構を削るために設計や製造など他部署のメンバーと力を合わせ、少しずつ現実の形に整えていきました。

1枚の写真をじっくりと撮影してもらうために、PENシリーズでは初めてEVF(電子ビューファインダー)を持たせています。EVFのユニットを組み込むと、当然カメラには高さが必要になります。しかし背が高いカメラの佇まいには優雅さが感じられません。上下幅を抑えるために、カメラ本体にレンズを取り付けるマウントの位置を可能な限り引き下げました。従来機種でここまでマウントを低く配置したものはありません。そして上部に空白を作ってEVFユニットを入れ込んだわけです。設計とデザインの緊密な協力によって初めてこうしたデザインが可能になりました。

確かな手触りを感じさせる隙のない作り込み

ヴィンテージもののワインのようにいつまでも価値を持つカメラを作りたい。それはこの製品の1つのテーマでもありました。そのために求めたのは、隙のないデザインと高い精度感です。トップカバーの素材はマグネシウム、フロント部分はマグネシウムに革調素材を貼付、ボトムカバーはアルミニウムを選択しました。トップカバーをマグネシウムとしたのは、重量と強度の兼ね合いです。同じ体積で作る場合、アルミに比べるとマグネシウムは半分強の重さで作れます。強度も十分なことからマグネシウムを選びました。
これまでPENシリーズのトップカバーはプレス加工で製造していました。しかし今回のPEN-Fは非常に複雑な形状だったため、プレス加工では困難です。そのため溶かした金属を型に流し込むダイキャストという加工法を採用しています。
細部まで拘って作り込むという姿勢が最も反映されているのが底面です。このカメラの底面には三脚穴と電池/カードカバーがあるだけで、1本のビスも外観に見せない設計にしています。これは前代未聞のことです。カメラをぶら下げて持ったとき底面までもが美しい、そんな隙のなさを実現しています。しかも通常はシリアルナンバーをシールで貼り付けるところですが、このカメラでは1台ずつレーザー刻印しています。マグネシウムはレーザー刻印に不向きです。ボトムカバーの素材としてアルミを選んだ理由の1つでもあります。底面からビスを廃する。これは容易なことではありませんでした。設計や製造だけでなく、メンテナンスにも影響を与えるからです。そのため、メンテナンス性を高めるための新しいアイデアも出し合いました。誰も実現したことがないカメラを作りたいという熱い思いで関連部署が一丸となって初めて実現できたデザインなのです。

PEN-Fの液晶画面は、自由に動かせるバリアングル方式を採用しています。もちろん自由なアングルでの撮影が可能というメリットはありますが、この方式を採用したのにはもう一つの大きい理由があります。ファインダーを覗いてダイヤルを操作し、じっくりと絵作りをしてシャッターを切る。そんな使い方をするときユーザーが液晶を閉じてフィルム時代のカメラであるかのように扱えることを狙ったのです。液晶の裏面には、フロント部分と同じ革調素材を貼り込みました。背面から見たときの佇まいに拘ったからです。ここまで作り込むのは極めて珍しいことです。

トップカバーとボトムカバーは塗装で仕上げています。素材は異なりますが、同じ質感になるように調整しています。PEN-Fにはシルバーとブラックの2タイプあります。シルバーはしっとりとした絹のような雰囲気を醸し出しています。一方のブラックは、表面に細かい凹凸をつけるレザートーンという特殊な塗装を使用し、落ち着きのある雰囲気を演出しています。塗装方法を変えたのは、シルバーとブラックで異なる世界観を表現したいからです。敢えて異なる塗装にすることで違いを際立たせています。

ダイヤルへの拘りで精度感を表現

カメラを握り、ダイヤルやレバーを一つ一つ自分で操作する一連の所作を楽しみながら味わってもらう。それが、このカメラの操作系に込めた思いです。
カメラの中でダイヤルはとても大事なパーツで、デザインにとても時間がかかります。自明のことですが、回しやすさなどの操作性、指を挟んで怪我をしないかという安全面での細かい配慮が必要です。このため何度も何度も位置をずらしたり、ダイヤルの径を変えたりして調整していきます。

PEN-Fでは、ダイヤルはすべてアルミの切削で製造しています。コストはかかりますが、精度感、高級感を演出するには最適です。ダイヤルを回したときのカチカチと動くメカニカルな心地良さは、プラスチック製のダイヤルでは出せません。
ダイヤルの周囲には、回すときに滑らないようにローレットと呼ばれる刻みを入れてあります。ローレットの模様は、アヤ目を選びました。最近は縦線を入れたローレットが主流ですが、このカメラのユーザーに向けてはクラシカルなアヤ目が相応しいと考えました。ただアヤ目が粗いと工具のように見えるので、品位が損なわれないように細かめのものにしました。またデザインが単調にならないように、モードダイヤルや露出補正ダイヤルの中央を上下に分けるラインを入れることで変化を持たせています。
ダイヤルにはアルマイト処理によって色を付け、ダイヤカット加工を施しています。アルマイト処理したダイヤルを高速回転させ、特殊な刃を当てると被膜が飛びます。そして削った部分にはアルミの地色が表出し、鏡のような輝きが出てきます。これがダイヤカット加工です。この加工を施すことで光が当たったときにダイヤルがきれいに輝きます。
ダイヤルの形状は普通では気付かないようなところにも配慮しています。オリンパスのカメラは使いやすい位置にフロントとリアの2つのダイヤルを持つのが特徴で、高い操作性を誇ります。リアダイヤルは円柱ではなく、僅かな傾きを持った円錐形にしています。操作する親指にダイヤルの角が当たらないようにするためです。そしてフロントダイヤルとリアダイヤルが同じ感覚で操作できるように、力が強い親指側のリアダイヤルは僅かにダイヤルを硬くしています。こんな細かな調整にしっかりと時間をかけています。

カメラ前面には、クリエイティブダイヤルを設けています。ダイヤル操作で自分が撮りたい写真を作画するのです。このカメラの思想を集約したダイヤルです。このダイヤルのデザインも一筋縄ではいかなかったものです。ダイヤルベース(メニューが印刷されているパーツ)はボディが湾曲しているため、普通の円柱形にすると正面からは楕円に見えてしまいます。エッシャーのだまし絵のように、ダイヤルベースに微妙な歪みを付けることで、本当は歪んでいるダイヤルが正面からは正円に見える。そんな細かい工夫をしています。

オリンパスでは、経営理念に掲げている「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」をすべての活動の基本思想としています。そのためにデザインセンターでは、健康・安心・心の豊かさといった人々の根源的な要請に応え、“人々を笑顔にするデザイン”を提供したいと考えています。
医療、科学、映像という3つの事業分野の製品デザインは、すべてデザインセンターで行っており、デザイナーは各分野を横断的に担当しています。
様々な分野の製品を手掛ける中で磨いた技術やノウハウが、このカメラのデザインに活かされており、またこのカメラで磨いた手法がほかの製品デザインにも活かされていきます。