「ねことじいちゃん」映画監督記

岩合さんが初監督を務める映画「ねことじいちゃん」。その撮影の様子を、お届けします。

岩合光昭、初めて映画監督に挑戦します!


ある日、映画のプロデューサーの方が僕を訪ねていらっしゃいました。ねこまき(ミューズワーク)さんの人気コミック『ねことじいちゃん』(KADOKAWA刊)の実写映画化を考えているのだけれど、「岩合さん、じいちゃん役で出演してくれませんか?」とおっしゃるのです。 「ええーっ!」とびっくり仰天。「僕はカメラの前でなく、カメラの後ろにいる人間ですよ」と申し上げると、にっこり笑って脚本を差し出されました。「冗談です。この映画の監督をしてくれませんか」。

「ねことじいちゃん」は、ある小さな島で暮らす、妻に先立たれた大吉じいちゃんとオスネコのタマの暮らしを描くコミックです。僕は監督のお話をいただく前に、偶然にも読んだことがあり、作者ねこまきさんのことも存じ上げていました。実は、ねこまきさんが描くほのぼのとしたタッチが好きで、ネコ番組のガイドブックのイラストをお願いしたことがあるのです。

監督をしてほしいというオファーをとても光栄に思いました。しかし、僕はこれまで映画の監督をしたことがありません。ネコのドキュメンタリー番組は撮ってはいるものの、役者さんの演出など未知の世界です。「やってみたい」という意欲と、「果たして僕に務まるのか」という不安が、心の中で激しく葛藤します。しばらく考える時間をいただきました。脚本を何度も読み返しました。そして、こんな思いに至りました。「単にネコが出ている映画ではなく、ネコの世界を主役として描いた、本当の意味でのネコ映画ができないものか。ヒトの物語とともに、ネコの物語が軸になった、僕にしかつくれないようなネコ映画に挑戦したい」。 僕は、脚本にネコのストーリーにもっと重点をおくことを提案し、初めての映画監督に挑戦することを決意しました。

プロデューサー深瀬和美さんのお話

ネコといえば、岩合さん。監督は岩合さんしかいないと思っていました。ネコのことがわかっていらっしゃることはもちろんですが、映画の舞台は小さな島。テレビのネコの番組でも、ネコとともにその土地の情感をうまく表現されているのが魅力で、何でもないような島の毎日を詩情豊かに描いてくれると期待してのことです。ですので、監督をお引き受けいただいた時は本当に嬉しかったです。ネコ好きのみならず、老若男女すべての人たちが、映画を観たあとに「こんな島で暮らしてみたい」と思うような作品にしたいと思っています。

大吉役は、立川志の輔さんしか考えられない!


©2018「ねことじいちゃん」製作委員会

映画「ねことじいちゃん」は、日本のとある島で暮らす大吉と、オスネコのタマによる、つつましくも豊かな「一人と一匹」暮らしを描く物語です。

主役の大吉というキャラクターは、元校長先生。どなたに演じてもらうのがいいだろうと思ったとき、僕の頭に浮かんだのが、落語家の立川志の輔さんでした。

実は以前、志の輔師匠は僕のネコの写真展を観にきてくださったことがあり、それがご縁で食事をご一緒する機会がありました。そのとき仕事の話が白熱したのですが、志の輔師匠の理にかなった話し方に、「なかなか学究肌の方だな」という印象を受けました。

「大吉役は、志の輔師匠しかいない!」僕はすぐに直接お電話し、オファーさせていただきました。

電話の向こうの志の輔師匠はたいへん驚いていらっしゃいました。そして、「そんな大役を軽はずみにお引き受けできない」と断られてしまいました。映画となると長期間スケジュールを空けていただかねばならず、お忙しい師匠には、それもなかなかハードルが高かったとも思います。

しかし数日後、札幌にいた僕に、志の輔師匠からお電話がありました。「私は役者ではなく、落語家だ。落語と演じることとは全く違うと思っている。それでも映画の話、挑戦してみようという気持ちになりました」。

僕は跳び上がるほどうれしかった。「大丈夫です。自然体でネコを可愛がってくださりさえすればいいんです。大吉役は師匠しかいません、師匠ならできます」。

志の輔師匠にお引き受けいただきホッと安心するとともに、一緒に挑戦していただく師匠の期待に応えねばと、僕の背筋も伸びました。

立川志の輔さん(主演)のお話

「えっ、落語家の私にですか!?」青天の霹靂とはこのことで、何かの間違いだとしか思えないほどのムチャぶりのオファーでした。けれども私は、岩合さんのネコ番組も欠かさず見ていましたし、岩合さんが撮る、ネコをはじめとした動物写真の大ファン。ましてや初監督作品とのこと。

このご縁は、私も大好きなネコたちがこしらえてくれたものだと信じ、初挑戦させていただくこととなりました。岩合監督からはもちろん、ネコの「タマ」さんからも駄目出しされないよう、精一杯努めたいと思っております。

百匹以上ものネコたちの中から、僕のハートを射止めたのは、ベーコンくん!


映画「ねことじいちゃん」の主役といえば、大吉じいちゃん役の立川志の輔さん。そして他に、重要な主役がいます。大吉じいちゃんと一緒に暮らす、ネコのタマです。

この映画は、タマ役のキャスティングが成功のカギを握っているといっても過言ではありません。果たしてタマを務められるネコが見つかるのか。僕は不安と期待が入り混じった気持ちで、タマ役のオーディションの日を迎えました。オーディション会場は、映画会社の大会議室。志の輔師匠にもお越しいただき、広い会議室の端から端まで、ネコと一緒に歩いてもらうことにしました。

ネコのなかには、大勢のヒトの気配にすくんでしまったのか、なかなか歩こうとしないネコもいます。

そんな中で、ある一匹のキジトラのネコの番がやって来ました。彼を見た瞬間、「お、なかなかいい顔をしているな」と思いました。すると、そのネコは、そこにいる一人ひとりの足元をスリスリと挨拶するように歩き回ったかと思うと、志の輔師匠の顔を何度も見上げたのです。その様子がまさに、僕が思い描く大吉とタマ。志の輔師匠と並んで歩いても、相性ぴったりです。「もうこのこしかいない!」と思いました。それが、ベーコンくんでした。

しかし、ベーコンくんには問題がありました。キジトラの毛並みは暗いため、からだが背景に溶け込んでしまい、映像が映えないのではないかという懸念があったのです。撮影スタッフ、照明スタッフと協議しました。ベーコンくんのお腹には白っぽい毛がある。これなら逆光のなかでも、立体的な映像が撮れるだろう、心配はいらないという結論に達しました。

また彼には年齢の問題もありました。原作のタマは10歳ですが、ベーコンくんの実年齢は4歳。とても10歳には見えないため、映画では6歳という設定に変えることにしました。

こうしてタマ役として主演が決まったベーコンくん。かわいいネコ、きれいなネコは他にもいました。でも、ちゃんと動きができそうなベーコンくんに、僕は賭けることにしたのです。