写真集「Australia」撮影エピソード

写真集名:

Australia

Mitsuaki Iwago-オーストラリアの動物

発行日:1989年10月20日 第1版
発行所:朝日新聞社

タンザニア・セレンゲティでの1年半にわたる撮影取材から帰国した後、1986年から1988年の2年3カ月間、今度はオーストラリアに滞在して撮影取材を行いました。1988年はオーストラリアにとって、建国200年を迎える記念すべき年でした。そして、その200年間は、オーストラリアの多くの土地が、人間の手によって牧場化される歴史でもありました。僕は、自然や野生動物に対して人間がどう関わってくるのか、興味がありました。アフリカでは主に野生動物ばかりを撮影していましたが、オーストラリアでは、自然と人間の関係性を見ることに重点をおきたいと考えました。

撮影を終えようとした途端の出来事。

これは有名なエアーズロック。オーストラリアのほぼ中央、アポリジニの聖地でもあるレッドセンターと呼ばれる地域にある、オーストラリアで2番目に大きな一枚岩です。雨のエアーズロックがたいへん美しいと聞いていたので、それをめざして行ったのですが、残念ながら雨は降っていませんでした。夕日が沈み、岩が黒くなってきたので、撮影を終えることにして、カメラをバッグにしまいかけました。そのとき、なんだか異和感をおぼえました。日が沈んだのに、岩が妙に明るくなってきた気がしたのです。目を向けると、そこには鮮やかに赤く輝くエアーズロックがありました。沈んだ太陽が雲に反射して、岩を赤く染めあげていたのです。日が落ちて周囲が暗くなっていたぶん、その姿は存在感を放ち、神々しくさえ見えました。僕は急いでバッグからカメラを取り出し、その一瞬をおさめました。

時には、ヘリコプターから撮影。

かつてはヒツジの牧場だったスタート国立公園。僕は、牧場だった頃の名残りの建物を借り、ベースキャンプとしていました。高床式の木造の建物で、電気は自家発電。シャワーは倒木を集めてきて、ドラム缶にお湯を沸かして浴びていました。遠くに地平線が見える、見渡す限りの赤い大地。そんな人っ子一人いないようなところで、「あ、人がいる!」と驚くことがあります。よく見ると、それは後足で直立しているアカカンガルー。有袋類のなかで最も大きいアカカンガルーは、立ち上がると1.8mぐらいあり、人が立っているように見えるのです。アカカンガルーは尾でバランスをとりながら、力強い跳躍を見せます。全力疾走すると時速40~50㎞にもなり、クルマで追いかけるのも難しい。以前、牛の牧場があったとき、カーボーイではなく、ヘリコプターで牛を追いかける〝ヘリボーイ〟がいました。ヘリコプターで牛を追いかけられるなら、アカカンガルーも追いかけられるだろう。僕はヘリコプターをチャーターして操縦士に低空を飛んでもらい、時には空から撮影しました。

一生懸命に探している間は、コアラは見つけられない。

カンガルー島の西端にあるフリンダーズ チェイス国立公園。このユーカリの森にはコアラが生息しています。コアラは高い梢にいるので、探すときは〝上を向いて歩こう〟が合言葉。しかし、1時間たっても見つけることができませんでした。上を向いてばかりいたので、首も痛くなり、ため息とともにユーカリの木の下に座って休憩をとりました。そして何気なく上を見上げたら、「あ、コアラがいる!」。あんなに一生懸命に探している間は見つけられなかったのに、探すのをやめたら見つかる。コアラはきっと梢の陰に隠れて、僕を見ていたのだと思います。僕が動かなくなったのを見届けて、安心して現れたのではないかなぁ。
この写真のユーカリの森は、悲しいことに現在は焼失しているかもしれません。2019年から2020年にかけ、カンガルー島では落雷による大規模な森林火災が発生したのです。ユーカリの森がなければ、コアラは生きていくことができません。豊かな森が回復することを願ってやみません。

オーストラリアアシカの子供が、アタマに花飾りをつけていた。

カンガルー島の南、白い砂浜が続くシールベイ自然保護区。名前は〝アザラシの湾〟ですが、オーストラリアアシカの生息地として知られています。南極まで何も隔てるものがない海は、この日の前日、大荒れに荒れていました。いたるところに海藻が打ち上げられている浜辺で出会ったのが、このメスのオーストラリアアシカ。アタマに赤い海藻をのせています。この写真を見た方から、「岩合さんがアタマにのせたのですか?」と尋ねられることがあるのですが、とんでもありません。何かの偶然で、花飾りのようにアタマにのっかったのでしょう。そういえばシールベイ自然保護区のレインジャーから、〝かみつく〟という日本語を教えてほしいと言われたことがあります。アシカが可愛いと駆け寄ってしまう観光客がいるとのことです。どんなに愛らしく見えても、野生動物は野生ということを知ってほしいと思います。