オリンパスが独自開発したディープラーニング技術を使用 呉医療センター・中国がんセンターとAI病理診断支援ソフトウェアを共同研究臨床現場における病理医の負担軽減に期待

2018年9月3日

オリンパス株式会社 (社長:笹 宏行) は、独自開発したディープラーニング技術を用いて、独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター(院長:谷山 清己)の臨床研究部病理診断科と、「胃生検材料を用いたAI病理診断支援ソフトウェア」の共同研究を行いました。368件の病理ホールスライド画像*1をもとに学習させ、感度*2100%、特異度*350%の精度のAI病理診断支援ソフトウェアの実現を目指し、それに近い精度をもつ結果が得られました。これにより、臨床現場における病理医の負担軽減が期待できます。病理研究用顕微鏡の高いシェアをもつオリンパスの科学事業は、今回独自開発したディープラーニング技術をもとにして、今後もAI病理診断支援ソリューションの提供に向けた開発に取り組みます。

検査機器の発展によってがんなどの早期発見が可能となり、病理診断の需要が増えています。しかし病理医は、需要に反して多くの病院で不足しています。診断件数が増加し、内容が複雑化する中で、病理医の負担軽減は大きな課題になっています。

その中で負担軽減の対策として注目されているのが、画像診断に強みを持つAIによる病理診断です。オリンパスは、呉医療センター・中国がんセンターの谷山清己院長と2017年から「胃生検材料を用いたAI病理診断支援ソフトウェア」の共同研究を行ってきました。当研究は、胃の病理診断、デジタルパソロジーにおける権威である谷山清己院長の持つ知識や経験と、オリンパスの持つ画像システム技術、AI開発に取り組んできたノウハウにより実現しました。本共同研究の成果は、2018年9月1日に開かれた、第17回日本デジタルパソロジー研究会総会で、広島大学大学院医歯薬保健学研究科分子病理学研究室の谷山大樹医師によって発表されました。
病理研究用顕微鏡の高いシェアをもつオリンパスの科学事業は、今回独自開発したディープラーニング技術をもとにして、今後もAI病理診断支援ソリューションの提供に向けた開発に取り組みます。

※1 スキャナーを用いて病理ガラス標本全体をデジタル化した画像

※2 陽性を陽性と診断する割合

※3 陰性を陰性と診断する割合

「胃生検材料を用いたAI病理診断支援ソフトウェア」研究の概要

  • オリンパスが病理画像の解析用途に適したディープラーニング技術を独自に開発した。
  • 呉医療センター・中国がんセンターが所有する、胃生検の病理ホールスライド画像368件から、正確かつ詳細な診断情報を持つディープラーニングの学習データを作成した。それらのデータを用いて、胃生検における腺がん*4の検出を支援するAI病理診断支援ソフトウェアの技術を完成させた。
  • 【テスト1】で、786件(腺がん297件、非腺がん489件)の症例を検討し、腺がんはすべて陽性(感度100%)と判定するようにソフトウェアの基準値を設定した。この基準値設定では、非腺がん489件中225件が陰性と判定された。
  • 【テスト2】では、テスト1で設定した基準値において、新たに140件(腺がん67件、非腺がん73件)の症例を検討した。その結果、腺がん67件はすべて陽性と判定され、非腺がん73件中37件が陰性と判定された。【感度100%(67件/67件)、特異度50.7%(37件/73件)】
  • 偽陰性*5率が低いAI病理診断支援ソフトウェアは、陽性症例の見落とし防止や、陰性症例のスクリーニング効果により、実臨床における病理医負担の軽減が期待される。

※4 がんの一つ。胃生検におけるがんのほとんどが腺がんと言われている

※5 陽性を誤って陰性と診断してしまうこと

研究の背景

近年、病理医不足が言われる中、病理診断件数が増加しています。病理学会によると、「がんの治療方針(治療薬)を決定するために、多数切片の鏡検やコンパニオン病理診断の導入など、特に悪性腫瘍手術検体で診断病理医の負担が大きくなっている」*6とされています。実際に、病理診断件数は2005年から2015年にかけて2,143,452件から4,762,188件と約2.2倍に増加、がんの治療方針(治療薬)を決定するための免疫染色件数も、151,248件から426,276件と約2.8倍に急増しています*7。このような背景のもと、AIを用いた診断支援ソリューションを確立することで、病理医の負担を軽減させ、更なる診断の質向上に貢献できると考え、AI病理診断支援ソフトウェアの共同研究を進めてきました。

※6 日本病理学会 “国民のためのよりより病理診断に向けた行動指針2017”より引用

※7 厚生労働省 大臣官房統計情報部 社会医療診療行為別調査より引用

「胃生検材料を用いたAI病理診断支援ソフトウェア」共同研究の詳細

本研究について

2015年から2018年の間に呉医療センター・中国がんセンターで診断された胃生検標本を用いて、病理画像による診断支援のためのディープラーニング技術を開発しました。ディープラーニング技術には、病理画像の特徴解析に適した独自のコンボリューショナルネットワーク*8(以下CNN)を用いています。この技術により画像の腺がん組織領域を識別し、更にその結果に基づいて腺がん画像と非腺がん画像の分類を行いました。本研究は、病理ホールスライド画像とその教師データとなる情報を用いてCNNのモデルを学習させる学習ステップと、学習させたモデルを用いて腺がん画像と非腺がん画像の分類を行なう推定ステップの2段階で構成されています(図1)。

※8 画像解析に適したディープラーニング技術として広く用いられている方式。解析対象の特徴を効率的に学習できる仕組みをもつ


図1 ディープラーニングの検討フロー

学習ステップでは、368件の病理ホールスライド画像と、画像の各画素にアノテーションを付けた教師データを学習に用いました。推定ステップでは、実臨床の使用を想定して、CNNが出力する腺がんの確率に対して腺がんであると判定する基準値を設定する検討をテスト1とし、テスト1で設定した基準値を用いて、新規症例の画像に対して腺がんと非腺がんに分類した結果を最終評価する検討としてテスト2を実施しました。

テスト1では、学習に用いていない786件(腺がん297件、非腺がん489件)の画像に対してCNNにより腺がんの確率を推定し、基準値を上回る確率の腺がん組織領域を識別し、さらにその結果に基づいて腺がん画像と非腺がん画像の分類を行ないました(図2)。基準値を調整して腺がん画像と非腺がん画像を分類し、感度と特異度を求めてROC曲線*9を作成しました(図3)。

※9 診断の有用性を検討する際によく使われる評価方法


図2 CNN出力からの画像分類
左:基準値設定前、右:基準値設定後


図3 ROC曲線
縦軸:感度、横軸:1-特異度

研究成果

テスト1では、腺がん297件すべてを陽性判定(感度100%)するよう基準値を設定したところ、非腺がん489件中225件が陰性と判定されました。感度100%(297件/297件)、特異度46%(225件/489件)でした(表1)。

表1.テスト1の結果

テスト1 診断支援ソフトウェアによる判定
腺がん(陽性)
561
非腺がん(陰性)
225
病理医による判定 腺がん
297
297
(感度: 100%)
0
(偽陰性率: 0.0%)
非腺がん
489
264
(偽陽性率: 54.0%)
225
(特異度: 46.0%)

テスト2では、テスト1で設定した基準値を用いて、新規症例である140件(腺がん67件、非腺がん73件)に対して最終評価を行いました。その結果、腺がん67件がすべて陽性と判定され、非腺がん73件中37件が陰性と判定されました。感度100%(67件/67件)、特異度50.7%(37件/73件)という結果が得られました(表2)。

表2.テスト2の結果

テスト2 診断支援ソフトウェアによる判定
腺がん(陽性)
103
非腺がん(陰性)
37
病理医による判定 腺がん
67
67
(感度: 100%)
0
(偽陰性率: 0.0%)
非腺がん
73
36
(偽陽性率: 54.0%)
37
(特異度: 46.0%)

今後の展望について

国内での胃生検病理診断件数は年間400万件を超えると言われています。偽陰性率が低く、陽性症例を確実に検出できるAI病理診断支援ソフトウェアにより、陽性症例の見落とし防止や、陰性症例のスクリーニング効果が見込まれます。これにより病理医の負担低減と、更なる診断精度の向上が期待できます。

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