技能者育成

研ぎ澄まされた感性と原理原則に裏打ちされた匠の技を継承する

顕微鏡の"ものづくり"は、精密さの追求に終始すると言っても過言ではありません。そこには、高技能者(匠)の研ぎ澄まされた感性と努力があるのです。高技能者をつくり上げるのは、まず技能者となるべき人が自分の技能レベルを知ることから始まります。

そして原理原則に基づく不断の努力と先輩からのノウハウの継承が不可欠です。これらを身につけた者こそが真の技能者といえるのです。オリンパスの製造現場での最大の財産は「人」。優れた技能は、過去から現在へ、現在から将来へと継承されていきます。

創業時からの夢、顕微鏡の技術をドイツ製のレベルまで高められると信じた

当社の創業は、顕微鏡の事業に始まる。創業者は、著書『苦節十三年! オリンパス顕微鏡の経歴』に創業時の成功要因について、以下のように述べています。

  • 職工の専門的特殊技術は一朝一夕をもって要請すること能(あた)わざりしこと。
  • 高級精密なる光学器械、特に顕微鏡製作の如(ごと)きは、手先の器用なる日本民族性に適当せることを体験し、邦人は斯(か)くの如(ごと)き民族的特長に従い、此(こ)の種の世界的産業を分掌しうる能力あることを確信し、従業員一同此(こ)の信念を以(も)って研究製作に従事しつつあること。

先行するドイツの製品の素晴らしさを感じることができても、製造方法や性能を得る"ものづくり"をまねすることはできません。準備された加工機、調整方法だけでは困難を極め、実験・試作の繰り返し。試行錯誤と努力により、ようやく顕微鏡が世界的にも認められるレベルに達したのは、製造現場の高度な技能に支えられた結果でした。


ヒット商品となった「BX51」研究用システム顕微鏡。


高精度に調整された対物レンズ。

師弟関係の中でノウハウが伝えられ技能が積み上げられていく


新人を育成する先輩の高技能者。

"ものづくり"の現場には、必ず師匠が存在します。さまざまな技能が、いわゆる師弟関係の中で継承されてきました。とりわけ顕微鏡は、師から継承されるノウハウなしには生まれ得なかったことでしょう。

「部品の加工段階から規格があり、その規格内に部品はできるのですが、基準寸法に対し必ずバラツキがあります。それが組み立て段階で積み重なり、その誤差の集まりによって"癖"となって現れます。組み立てで誤差ゼロを狙うわけですが、規格内であっても同じものはできません」と、黄綬褒章を受けた高技能者は、その体験を述べています。

彼は長年携わってきたノウハウを80ページの手書きのノートにまとめています。日ごろの気づき、失敗、先輩たちからの教えが丁寧に記されているのです。「黄綬褒章は私個人というより工場でもらったもの」とも話します。ノウハウはノートで伝えられ、さらに彼のような先輩から後継者へ、より多くのことが教えられていくはずです。

高度な技能は、原理原則に基づく試行錯誤の連続から生まれる

伊那工場は多くの名工を生んできました。2003(平成15)年に旋盤加工の名工に選ばれた高技能者は「第一線で新しい技術に携わってこられたおかげ」と振り返ります。

「材料が鋳型でつくられているのか、プレス加工されたものかによって、旋盤加工やフライス加工の方法が異なります。切削時の音や熱にも気をつかい、数マイクロメートル単位での精度で加工する技術を身につけてきました」と話します。

旋盤加工では温度上昇による膨張を考えて切削する必要があるため、加工時の温度を知り、その際の膨張を計算するという原理原則に基づいた切削条件を認識していなければなりません。決して「カン」だけの世界ではありません。

あるレンズ加工者は、研磨方法の新要素開発にトライしてきました。「レンズをゆがませない保持方法、研磨剤、ピッチなどの加工条件づくりには、世間で考えられるすべての材料や方法を検討し、試してきました」と、幾多の試行錯誤から自らの結論を導きだしています。「加工では、設定された加工条件のもと、1分先、30分先の状況が読めないと良いものはできません」とも語ります。

高度なコンピュータ数値制御の微細加工機が普及する現在も、人が介在する限り、熟練の技が必要です。変化するお客さまの要求を満たす生産現場に、名工の存在は欠かせません。また、このような高技能者は後輩に教えること、継承することを惜しみません。

受け継がれる高い技能がそれぞれの時代の技術革新を喚起する

オリンパスには、人は製造の財産との思想に基づいた高度技能者育成制度(例えばテクニカルマスター制度)があります。この制度化は、顕微鏡をつくりあげる人材の育成、継承を意識した伊那工場が出発点となっています。そして、幾多の技能検定をクリアした高技能者(テクニカルマスター)は、次世代の高技能者たちに、顕微鏡の基幹部品の試作加工を通して数々のノウハウを伝授するのです。この高技能者による「試作NC加工群」・「試作MC加工群」の試作部品生産ラインが、まさに伝授の場です。

一日でも早く高い技能を受け継ぐためには、まず、自分のレベルを知ることから始まり、先輩のレベルに近づく努力を重ねること。新人の一人立ちを、先輩たちは温かなまなざしで見守り続けます。そして、長い歴史の中で継承されてきた技能は、技術革新を喚起します。高技能者は、さらに高度な要求品質の実現へとチャレンジするのです。より高いレベルの製品は、生産技術とこれを補完する高度な技能が両輪となって、またこの両方が有機的に結びつき、実現されます。


試作NC加工群で次世代の高技能者にノウハウを伝授する。


試作MC加工群でノウハウを指導する高技能者。