ナンバーワン技術への挑戦「レンズ加工システム」

高技能を技術に置き換えるたゆまぬ挑戦が、技術の進化と差別化を加速する

高技能者の手作業に依存していたレンズの「研磨」加工。
時代と事業の要請により、技能だけに依存していたのではQCDの目標が達成できないことは明白でした。そこで、他社に先駆け、高精度レンズの大量生産が可能な、レンズ自動加工システムの自社開発に取り組んだのです。

それは、今まで聖域であった職人の高技能を技術に置き換えるという新たな挑戦でもありました。研磨砥石の開発やカン・コツ作業の定量化等、挑戦は継続され、レンズ加工技術の進化は続いています。

レンズ加工の自動化にかけた思い

光学技術はオリンパスの中核技術であり、光学系を構成するレンズは製品性能を左右する重要な部品です。レンズは、古くはニュートンの時代から同じ原理で加工され、長い間、技能者の知識と技能に依存してきました。

しかし、1970年代後半、大量生産化、品質安定化、コストダウンの要求が急速に高まり、レンズ加工の自動化が切望されるようになりました。当時レンズの自動加工機は市販されていましたが、オリンパスの求める精度やレンズ形状を満足させるものはありませんでした。

そこで、業界トップを目指し、レンズ加工の自動化への挑戦が始まりました。自動化を進めるには、従来技能者に依存してきた次の2つの技能を技術に置き換えることが急務でした。

  • 1. 液体研磨剤利用と研磨皿の製作
  • 2. カン・コツによる加工条件の調整

技能の技術への置き換え(1)液体研磨剤利用と研磨皿の製作

レンズ加工は、"球面研削"、"精研削"および"研磨"の3工程からなります。

(1)球面研削:カップ砥石によりワークに球面を形成(2)精研削:球面形状を整え、粗さを整える(3)研磨球面を光沢面に仕上げる
※レンズ加工工程

"研磨"には特に技能が必要とされ、液体の研磨剤をかけながら研磨皿でレンズを磨きます。長いものは1時間以上かけて加工します。技能者は加工するレンズに合わせて研磨皿を製作し、その出来栄えがレンズの面精度に直結します。

そこで研磨剤を液体からボンドで固めた砥石(といし)に発想転換し、独自の砥石開発に着手しました。砥石ならば、技能に頼らず専用機で標準的に研磨皿を製作できます。また、研磨効率を高めて加工時間を大幅に短縮できるのです。


独自開発の研磨砥石

砥石の開発では、研磨剤とボンド剤の混合方法、粉砕方法等多くの実験を粘り強く繰り返して行い、最適な方法を導きました。加工実験では技能者の意見にも耳を傾け、加工能力や耐久性を改善し、最終的に生産適用できる砥石を完成させました。

また実用化初期、製品開発者が、この砥石で加工しやすいガラス材料を採用してくれたことで、製品の適用範囲が拡大できました。砥石の加工性能は、研磨工具専門メーカーもしのぐレベルでした。

技能の技術への置き換え(2)カン・コツによる加工条件の調整

研磨では、加工中のレンズの姿勢が一定に保持できないため、加工荷重や研磨皿動作の条件が振れてしまいます。技能者は途中レンズの出来栄えを確認してはカン・コツを頼りに調整し仕上げていました。その条件を「定量化」するには、加工中のレンズの姿勢を一定に保持できる保持装置を一新する必要がありました。

生産技術者たちは現場の保持装置の観察、技能者との討議、既存技術の調査を徹底して行いました。その結果、自動車に利用されている継手機構に着目したのです。機構の模型を何回も手作りし、考え通りの動きが実現できるまで入念に実験を繰り返しました。

こうして、でき上がった保持装置を"リンク"と名付けました。加工実験を繰り返し、技能者の意見を取り入れて改善を重ね実用化につなげました。リンクと砥石の組み合わせで要求品質を実現し加工条件を定量化することに成功したのです。リンクは、オリンパス独自の技術として改良が重ねられ、レンズ保持装置の標準となっています。


リンク機構


独自の保持装置

レンズ自動加工システムの完成

砥石とリンクにより、技能を技術に置き換えました。次は、自動加工システムに仕上げることです。そのためにあらかじめ最適なレンズ加工条件データを入力しておき、それを呼び出して高精度な加工条件を再現します。

そして、レンズ加工の3工程を連結し自動搬送する設備を作り上げていったのです。設備設計者は、技能者の意見を懸命に聴きました。使いやすさにこだわり、準備段取り作業の効率化も実現しました。

レンズ自動加工システムの第1号機は、1984年に導入されました。以降進化を続けながら顕微鏡、カメラ、内視鏡レンズの生産に導入され、1994年オリンパスの技術展「オリンパステクノロジーフェア75」でカメラ向けレンズ自動加工システムを公開しました。これを見た他社の技術者は、オリンパスが、砥石から装置まで全て自前で作っているのに驚きました。当時、大手光学メーカーの多くが市販機を使っていたからです。

完成したレンズ自動加工システムは、顕微鏡の高精度レンズや内視鏡の微小径(数ミリメートル)レンズ等さまざまな形状にも対応できる画期的なものとなりました。現在では7代目のレンズ自動加工システムが稼働しています。

レンズ加工技術の挑戦に終わりはない

オリンパスはレンズ自動加工システムを着実に進化させてきました。一方、光学機器も日々進化し、レンズに求められる精度やコストの要求レベルはますます高まっています。

これに応えるため生産技術者はさらなる高技能を技術に置き換える取組みを継続し、技能者は自動化では追い付けないハイレベルな技能に挑戦し続けます。生産技術者と技能者が互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、新たな課題に挑戦してレンズ加工技術を進化させる取組みに終わりはありません。


カメラ向けレンズ自動加工システム(オリンパステクノロジーフェア75展示)