写真集「ペンギン大陸」撮影エピソード

写真集名:

ペンギン大陸

発行日:1992年1月1日 第1刷
発行所:株式会社 小学館

1973年から始めた南極大陸の撮影取材。1991年2月(夏)、4度目に訪れた際には、3週間にわたるテント生活を体験しました。船や基地で寝泊まりしての取材ではわからない南極を、自分の肌で感じてみたいと思ったのです。
キャンプ地は、エレバス山という活火山があるロス島。近くには、アデリーペンギンの営巣地がありました。夏の南極は一日中、太陽が空にあります。光線によって、赤にもピンクにも銀色にも金色にも染まる氷山の美しさには目を奪われました。テント周辺の気温は-15℃くらいでしたが、風が吹くと体温を奪われ、ものすごく寒くなります。数日間、ブリザード(雪嵐)が吹き荒れることもあります。雪は空から地面に向かって降るのではなく、地面と平行に飛び去ります。そのためテント周辺では雪が積もらず、ペンギンのフンが堆積してカシス色になった土地が露出していました。「あー、ここはペンギンの土地なんだなぁ」と実感し、写真集のタイトルを『ペンギン大陸』にしました。

南極は、白と黒の世界。ブリザードが吹きすさぶなか、アデリーペンギンはじーっと動かない。

ロス島にテントを設営した最初の日は、南極にしては珍しく、海は湖のように静かでした。これなら3週間の取材も大丈夫、と安心して寝袋にもぐり込んだ翌朝、バサバサという音で目が覚めました。外を見ると、雪の中に飛ばされたテントが、無残な姿ではためいていました。南極の気象は荒れるとわかってはいたのですが、結局、平穏な日は最初と最後の2日間だけでした。
真っ黒な雲が、白いブリザードを運んできます。この写真は、真っ白な世界にたたずむアデリーペンギンたち。黒い背中に雪が凍りつき、ペンギンたちは身じろぎもせず、じーっとしています。あまりに天候がひどいときは撮影に出かけることができず、僕も寝袋の中でじーっとしているしかありませんでした。
取材には、ヘリコプターで行くこともよくありました。パイロットは南極の悪天候にも冷静さを失わず、平然と操縦していました。さすが、極地専門のプロです。高度2,000mの南極高原に行ったときのこと、ヘリコプターから出た瞬間、同行したスタッフの眼鏡のレンズが割れるというハプニングが起こりました。ヘリコプターの中も寒かったのですが、そのときの外気温は-34.9℃。どうやら温度差で割れてしまったようです。撮影しようにも、指先に全く感覚がありません。指を温めようと、ジャケットに入れておいた使い捨てカイロを握ったら、カイロは凍っていました。計算すると、その時の体感温度は-70℃。南極の基地の人の話では、30分以上屋外活動すると、生命に危険が及ぶとか。それほど苛酷な寒さだったのです。

密!密!密! これほどたくさんのペンギンを育てるとは、なんと豊かな海なんだろう。

南極大陸は、ペンギンのフンの臭いです。強烈に生臭いのですが、撮影地に行くために乗った船が陸に近づき、この臭いが漂ってくると、「おぉ、たくさんのペンギンたちがいるんだ!」とうれしくなりました。この写真は、クローゼー諸島のコション島で撮影した、キングペンギンたち。小高い丘から、望遠レンズで撮影しました。望遠効果でギュウギュウのすし詰め状態に見えますが、実際はくちばしとくちばしが当たらない程度の距離を保っています。
茶色く見えるのは、幼鳥。ヒナがかえると、オスとメスが交代で海に出て、食べ物を与えます。オキアミや小さなイカをかみ砕き、はきもどしてヒナに食べさせます。海から帰ってきた親鳥は、こんなに密集した状態で、どうやって自分の子どもを見つけ出すのでしょう。じつは、姿ではなく、声で聞き分けているのです。お腹がすいたヒナは食べ物をねだって、あっちへこっちへと、自分の親ではなくても追いかけ回します。親鳥は、キミはうちの子じゃないと、うるさそうに突っつきます。それにしても、こんなにたくさんのペンギンを育てている南極の海は、なんと豊かなことでしょう。母なる海が守られることを願っています。

ヒゲペンギンを証明写真のように撮ってみた。

みなさん、きっと、ペンギンの顔をじっくり真正面から見たことなんてないと思います。これは、南極半島で撮影したヒゲペンギン。その名のとおり、アゴの下に、あごひげのような黒いラインが1本あるのが特徴です。頭の黒い羽毛は、ヘルメットをかぶっているようにも見えます。ペンギンはオスなのかメスなのか、わかりやすい区別はありませんし、どの個体もみな似ているように見えます。僕は何か発見したいと思い、1〜2mの距離まで近づき、真正面からの撮影を試みました。「あぁ、こういう顔をしているのか」と、シャッターを切りながら見入ってしまいました。そして、1羽1羽、顔つきが微妙に違うことに気づきました。ペンギンを観察するのは本当に楽しく、見飽きることはありませんでした。

幼さが残る、2羽のアデリーペンギン。デートしているかのように見えた。

これは、キャンプ地のロス島で見かけたアデリーペンギン。稜線に2羽だけいるのが珍しくて撮影しました。頭頂部にモヒカン刈りのように、少しだけウブ毛が残っています。まだ若いペンギンです。オスかメスかはわかりませんが、ティーンエージャーが青空のもとデートしているように思えて、微笑ましい気持ちになりました。
アデリーペンギンは毎年1回、羽が抜け替わります。南極の地面は一面、ペンギンの羽だらけです。羽といえば、ちょっと閉口したのが、お茶を飲むとき。キャンプ地での生活は、雪を溶かしてお湯を沸かします。目覚めると、テントから50mくらい離れた吹き溜まりに行き、スコップでバケツに雪をすくってテントに運ぶのですが、雪の中にペンギンの羽がたくさん入っています。目につく羽は取り除くのですが、クッキングストーブで雪を溶かすと、まだまだ大量の羽が浮いてきます。最初の頃は、1本1本指ですくっていましたが、そのうち羽は当たり前になってしまい、〝ペンギン茶〟を味わっていました。