消化器内視鏡の発展を通してインドの生活の向上に貢献

インド・ハイデラバードの大手医療機関Asian Institute of Gastroenterology(AIG)の理事長であるD ナゲシュワール・レディ博士は、医師である祖父と父の影響を受け医学の道を志し、在学中に消化器内視鏡学を専門に学びました。レディ博士は、フェローシップ期間中に内視鏡手術で患者さんの命が救われるのを目の当たりにしたことをきっかけに、内視鏡治療への強い関心を持ちました。

AIGは、社会的・経済的な背景の異なる人々の医療環境を改善するために、「世界中の患者さんが、医療技術、インフラならびに人材の側面において、先進国と同等の高水準のケアを受けるべきである」という理念のもとに設立されました。しかしながら、現実にはインド国内の医療格差は依然として存在しており、農村部や郊外に住む人々の多くは、質の高い医療を受けることができていないとレディ博士は言います。

「新興国のがん患者の生存率は先進国より低く、例えばインドの大腸がん患者の5年生存率は約30%*1であるのに対し、日本では約70%*2に達しています。がん治療には、定期的な検診による早期発見と早期治療が重要です。一方で、インドではがん検診を行う施設が少なく、医師の数や研修の機会も十分ではありません」

レディ博士とAIGは、適切な医療を受けることが難しい地域の人々の医療水準を向上させることを目的に、内視鏡の移動診療に着手しました。オリンパスの存在意義である「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」の下に、オリンパスは必要な医療機器の提供を通して移動診療の導入に貢献しました。内視鏡の移動診療を活用することで、農村部の人々に対して、これまで見つけることのできなかった疾患の発見に役立つ上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査ならびに基本的な肝機能検査を提供することができ、結果として、治療を必要としていた多くの人々の命を救うことにつながりました。例えば、妊娠中にマロリー・ワイス症候群を発症した女性に対して、診断後すぐに内視鏡による止血治療を施したことで、大事に至らずに済んだ例があります。

消化器内視鏡の劇的な変化 – 純粋な検査法から主要な治療法へ

「この30年間で、消化器内視鏡は劇的な変化を遂げ、純粋な検査法から主要な治療法へと発展し、さらには消化器疾患の患者さんに施す治療法も変わりました」

レディ博士はまた、かつて多くの消化器疾患には、薬物療法や手術などの高侵襲な治療が行われていたと述べています。消化器内視鏡検査は、がんを含む病気を早期に発見し、切除しやすくすることで、患者さんの生活に大きな変化をもたらしています。早期に発見されることにより、胃がんと診断された患者さんは10年以上の生存も可能になりました。また、胆管炎などの重症の患者さんでも、内視鏡治療により治癒する可能性があるとレディ博士は指摘しています。

オリンパスとの協働で次世代の内視鏡医を育成

インドのヘルスケア産業は、インドで雇用機会が多い産業のうちのひとつでありながらも、(総雇用者数470万人)内視鏡医は比較的少ないのが現状です。例えばインドの内視鏡医は人口10万人あたり0.5人ですが、日本では人口10万人あたり15.5人(2020年時点)であり、高度な訓練を受けた内視鏡医をいかに増やすかが課題です。*3

レディ博士は、オリンパスがAIGとの協働を通して、最先端のトレーニング施設を創設し、500人以上の内視鏡医にトレーニングを提供したことについて、インドの医療改革に大きく貢献したと述べています。「オリンパスは、AIGやインドの学会と連携し、年間 150回以上にもおよぶ内視鏡トレーニングの支援や、医療機器の迅速な修理サービスを提供してくれています。特に、内視鏡医の育成には大きな意義があり、これはインドの人々の健康や生活にも大きく寄与しています。このような取り組みを通してオリンパスは、製品以上の付加価値を私たちに提供してくれていると感じています」

レディ博士は、将来の希望は最大のハードルを乗り越えること、つまり「すべての人が医療を受けられるようにすること」であると語ります。

「インドでは人口も経済も急成長し、がんなどの生活習慣病が増加傾向にあります。しかし、オリンパスのようなパートナーとの協業を通して、インドの医療環境がよりよくなるための最大限の努力を続けていくことで、明るい未来が見えてくると信じています」

*1 World Health Organization. (n.d.). GCO - SURVCAN. Retrieved from International Agency for Research on Cancer: https://gco.iarc.fr/survival/survcan/dataviz/table?survival=5&populations=0&cancers=90

*2 国立研究開発法人国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計 がん情報サービス https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/index.html (参照2023年3月16日)

*3 一般社団法人日本専門医機構 日本専門医制度概報令和3年(2021年)度版 https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/gaiho_2021.pdf (参照2023年3月20日)