「自分の体質を知ることが大切」遺伝性の大腸がんと診断されて

ドイツに本社を置く国際的なセメント会社で、経験豊かな品質管理者として働くクリスチャン・シュナイダー。45歳のとき、内視鏡検査でがんが見つかり、手術を受けました。診断の結果、大腸がんの2〜4%程度とされる「HNPCC(遺伝性非ポリポーシス大腸がん) 新規タブで開きます」とわかりました。治療やリハビリを経て、元の生活を取り戻したクリスチャンに闘病体験について聞きました。

異国の地で予期せぬ大腸がんが発覚

2014年の夏、クリスチャンは仕事のため、家族とオーストリアのウィーンで暮らしていました。スポーツ愛好家で自転車に乗るのが好きだった彼は、健康には自信があったといいます。仕事も充実し、多忙な毎日を送っていたある日、便に血が混じっているという異変に気づきます。特に痛みはなく、症状はすぐに消えましたが、しばらくすると、何度か同じ症状が続くようになりました。「たいしたことはないだろう」。そう思いながら、検査を受けた病院で、クリスチャンは予想外の結果を聞くことになります。内視鏡検査で、大腸に4センチほどの腫瘍が見つかったのです。「がんだと診断され、これまで経験したことがないような恐怖を感じました。」(クリスチャン)

HNPCC(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)とは?

クリスチャンが診断されたのは「HNPCC」という種類のがん。遺伝的に、比較的若い年齢で大腸がんなどを発症しやすい体質であることが分かったのです。この遺伝子変異が親から子どもへと伝わる確率は50%と言われていますが、これまで両親や親族の病歴について聞いたことがなかったクリスチャンにとっては、青天の霹靂でした。

知らせを聞いたクリスチャンの母親は、ウィーンから900キロ離れたドイツの自宅から息子のもとへ駆けつけました。多くの友人たちも、クリスチャンのために祈り、勇気づけてくれました。家族や友人の存在に支えられ、クリスチャンは「自分がやるべきことは、病気に向き合い、自分自身のケアに最善を尽くすことだ」と考えました。最初に感じた恐怖も薄れていったと語ります。

大腸がんの診断の3日後、クリスチャンは腫瘍を取り除く手術を受けました。事前の検査で肝臓にも影が見つかっていたため、開腹手術が選択されました。ウイーンの大学病院で行われた手術は無事成功。心配されていた肝臓も異常は見つかりませんでした。

自分自身を「知ること」の大切さ

手術の後、クリスチャンは専門クリニックで1カ月ほどリハビリを受けました。経過は順調で、「クリニックからサイクリングの許可が下りたときは、本当に嬉しかった」と語ります。手術から2カ月後には、フルタイムで仕事ができるまで回復しました。

HNPCCは再発の可能性も高いとされるため、クリスチャンは年に1回、定期的に内視鏡検査を受けるとともに、日々の食事に気をつけ、適度な運動をしています。「生まれながら持っている遺伝子は変えられませんが、自分の体質や特性が分かっていれば、がんの予防や早期発見のために対処できると思います。より早く自分のことを知ることで、自分を守ることができるでしょう。」(クリスチャン)

手術から9年が経った現在、クリスチャンは仕事に励むとともに、趣味のギターを弾いたり、友人とスポーツを楽しんだりして、手術前と同じ日常を過ごしています。「この経験を通して、家族や周囲の人たちを大切にするためには、まずは自分を知り、自身の健康を維持することが大事だと学びました」と笑顔で話してくれました。

患者さんの状態や感じ方、治療内容は個人差があります。診断、治療については医師にご相談ください。