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世界への医療機器の供給を絶やさない──サプライチェーンの維持に向けた瀬戸際の攻防

  • SCM・調達

SCM

SCMの中で、大切な医療機器を世界各国のお客様に届けるための輸出関連業務を担当しています。世界情勢の変化により発生するイレギュラーな状況にも迅速に対応できる知識と経験を活かして、チームメンバーや各国にいるSCMの仲間、パートナー企業と一体となって、困難を乗り越える。その後、現場から「ありがとう」と言われることが、何よりもうれしいです。

リーダーとして、海外現地法人や代理店向けの輸出手配業務を統括

現在のお仕事の内容について教えてください。

SCM(サプライチェーンマネジメント)においてさまざまな仕事がある中で、世界約15カ国の現地法人や代理店に向けた医療機器や修理・製造用の部品の輸出手配業務を統括することが私の主な仕事です。また、リーダーとして、輸出業務に関するメンバーの困りごとの相談役も務めています。輸出入の制度が確立されていない東南アジア各国から寄せられるイレギュラーな問い合わせ、要望への対応について助言することが多いですね。

国ごと、輸入者ごとにルールが異なりますし、『うちのやり方に従ってもらわないと困る』『減免税の手続きをしたいから、原産地証明書を発行してほしい』という具合に、最終的な納入先となるお客様からもさまざまな要望が寄せられます。ビジネスを成り立たせるためには、そうした注文に一つひとつ応えていく必要があるため、定型化を目指してはいるものの、不規則な作業が多いのが輸出手配業務の特徴です。

開発部門など、普段は輸出に関わらない社内の各部署からの相談にも対応しています。『評価用のサンプルを輸出したいが、どうすればいいか?』『貿易をするに当たって、どのように相手先と条件を整合すべきか』といった悩みに答えています。

仕事をする上でどんなことを大切にしていますか

“Agility——鉄は熱いうちに打つ”を徹底しています。かつての上司に、『メールを放っておくと忘れてしまう。鉄とメールは熱いうちに打て』といわれたことがとても印象に残っていて。実際、メールに限らず、アイデアを思いついたときや、やるべきことがあるときも同じで、思い立ったときにやらないと、どんどん後回しになるものです。とくに輸出手配業務では、行動が遅れると取り返しのつかない事態になることもあるので、ここぞというときは最大限に頭を回転させ、できるだけはやく判断を下すよう心がけています。

メンバーのバックグラウンドを尊重することも大切にしている点です。女性が多い職場ということもあり、それぞれの家庭事情に配慮しながら業務分担したり、業務内容を調整したり。キャリアプランなど業務以外のことも含めてこまめに情報交換しながら、皆が働きやすい職場づくりを目指しています。

供給断絶の危機。関連部署が総力をあげて克服

これまでのキャリアの経験と、オリンパスに転職した経緯について教えてください。

大学を卒業後、電機機器メーカーに入社しました。調達部門で電池や半導体の調達、原価低減および海外現地法人への日本調達部品の輸出、完成品の輸入などを担当。タイの工場が洪水による浸水で操業を停止した際、現地へ飛んで工場再開までの3カ月間、タイ工場と日本の部品調達の窓口を務めたこともありました。

その後、自分のスキルを客観的に証明できるものがほしいと考え、通関士の資格を取得。貿易業務の経験や知識を活かしてさらにキャリアアップしたいという思いから、転職を考えるようになりました。

オリンパスに興味を持ったきっかけは、物流を子会社に委託するメーカーが多い中、輸出入を手がける部門が社内にあると知ったこと。当初はフォワーダーへの転職を検討していましたが、他社の貨物を扱うのではなく自社の製品を扱うほうが、製品に愛着を感じながら仕事ができると考えたんです。また、オリンパスが手がけるのは医療機器。社会貢献度が高く、大きなやりがいを実感できるところにも惹かれ、入社を決めました。

入社後、一番印象に残っている仕事はありますか?

2022年にロシアのウクライナ侵攻が始まったことを受け、欧州向けフライトが軒並みキャンセルになったときのことが記憶に残っています。飛行機がロシア上空を飛べなくなったことで、航空輸送のスペースが激減。供給断絶の危機を迎えました。各社が海上輸送に一斉にシフトしたことで、コンテナの争奪戦となり、ひと箱あたりの価格が高騰。十分な輸送手段を確保できないという非常に厳しい状況に陥りました。

それでも各地からの受注は続きます。倉庫に滞留し続ける貨物を輸出するため、輸送船のスペース料金をめぐって日々、フォワーダーと交渉。レートを提示され、『30分以内に返事がほしい。さもなくば他社に声をかけます」という具合でした。日々、時間との闘い。しびれました。

自社側に対しても、現地法人の窓口である受注チームに納期の延長をお願いしたり、優先順位を聞いたりと、調整に奔走。緊急度の高いものを航空便で、多少納期が遅れてもよいものを船便で出すなど仕分けていきました。

事態を正常化させるには数カ月かかるといわれていましたが、私たちの部門、倉庫、受注チーム、そしてアメリカ、ドイツをはじめとするグローバルが総力をあげて取り組んだ結果、わずか1週間ほどで滞留していたすべての貨物を輸送することに成功。2020年にも、COVID-19の感染拡大にともなって同様の事態が起こりましたが、そのときにまして深刻な事態を乗り切れたことで、大きな達成感を得ることができました。その時に、上長が私にかなりの部分を任せてくれて、権限移譲してくれたことも、この困難な状況を乗り越えられたことにつながったのだと思います。

原本での取引を電子化し、完全在宅化を実現。輸出業務プロセスの抜本的な改革にも着手

輸出関連業務の改善についてはどのような成果が得られていますか?

原産地証明書をはじめ、貿易部門で取り扱う書類の中には原本書類が多く、在宅勤務は困難といわれていましたが、輸出業務を電子化して完全在宅勤務化を実現しました。

まず着手したのがL/C取引の削減です。L/C取引とは、輸出者がL/C(信用状)条件に基づく書類を提示することで、輸入者に代わり、銀行が輸出者に対して代金の支払いを保証する取引のこと。それまで頑なにL/C取引を続けてきた台湾代理店に対し、マーケティング部門経由で働きかけたところ、L/C取引を停止することができました。

また、日本を経由しない仲介貿易取引額が月間で3000万円以上ある場合、取引報告書を日本銀行に提出する決まりがあるのですが、その際に紙で提出していたものをデジタルに置き換えたり、L/Cの原本を銀行に保管してもらうことで、こちらで管理する手間をなくしたり。原本での取引を大幅に減らしたことが、完全在宅勤務化につながりました。

そのほか、どのような業務の改善活動をしていますか?社内の空気とあわせて教えてください。

現在は、倉庫から航空・船舶へ貨物を搭載するまでの輸出業務プロセスの抜本的な改革に着手しているところです。このところ、オリンパスは全社ぐるみで変革に取り組んでいますが、私たち社員一人ひとりが変わろうとする強い意志を持って行動しなければ、何も変わらないと思っています。輸出業務プロセスの改革は、これまで長く受け継がれてきた従来のやり方にメスを入れるというとてもチャレンジングなものですが、上司からは、『どんどん提案してくれていいし、失敗してもいい。責任はこちらで取るから、思い切ってやってほしい』と心強い言葉をもらっているんです。おかげで失敗を恐れることなく、前向きな気持ちで取り組むことができています。

貿易・物流機能のさらなる向上を。すべての人が適切な医療行為を受けられるために

仕事をしていてどんなところにやりがいを感じますか?

SCMは、どちらかというと周囲からあまり注目されることがない部門。製品は輸送して当たり前ですし、発注先に届いて当たり前ですから。でも、COVID-19の流行や紛争といった外的な要因で輸送が困難な中、医療機器を無事に送り届けられたときに相手先から『ありがとう』の言葉がありました。それを必要としているドクターや患者さんの手に渡り、生命を守る営みに貢献できたと思うと、大きなやりがいを感じます。

また、展示会に出展したいということで、インドから無茶なスケジュールで発注を受けたことがあったんですが、調整の甲斐あって初日に間に合わせることができました。『オリンパスの製品をアピールできたよ』と写真とともに感謝のメッセージが送られてきたときもうれしかったですね。

今後の展望について教えてください。

2019年と2021年の二度にわたり育休を取得し、とくに二回目は約半年の長期休暇を取りました。当時のSCMでは男性育休の取得率が低かったのですが、私がSCMのリーダーとして初めて長期休暇を取ったことで、『三井が取ったんだからXXも取ってみたら?』『これからは男性も家庭のことをやらなきゃいけない』と上司が口にするようになるなど、育休が取得しやすい雰囲気がいまはあると感じます。よりいっそう働きやすい環境、ライフワークバランスが実現しやすい職場づくりを目指していきたいですね。

個人的には、現状に満足することなく、最新の技術や仕組み、パートナーとの協業などを取り込みながら、サプライチェーンにおける貿易・物流機能の向上を図りたいと考えています。どんな状況下でも、日本から世界へのオリンパスの医療機器の供給の流れを絶やすことなく、すべての人が平等に適切な医療行為を受けられる世の中を実現するための手助けができたらと思っています。

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