「もう一度、チャンスをもらえた」
呼吸を改善するため「気管支バルブ」を入れたエンジニア

「治療の結果、もう一度、チャンスをもらえたような気がします」と語るのは、アメリカでエンジニアとして生きてきたラス・ウェルチャートさん。50代後半のときに肺気腫を発症し、呼吸改善を目的として、気管支に小さなバルブ(弁)を挿入する治療を受けました。「今は、本当に幸せです」。そう話すラスさんに病気との向き合い方を聞きました。

医師から告げられた衝撃的な診断

イリノイ州クインシー生まれのラスさんは、電子機器製造の分野で何十年も働いてきました。製造エンジニアやソフトウェア開発者として、問題を分析して解決策を考え、システムが円滑に動くまで改善を重ねてきました。

エンジニアリングによる改善こそが彼のアイデンティティであり、誇りとしてきたことでした。ところが40代になって、「技術では解決できない問題」に直面します。肺に違和感が生じ、呼吸がうまくできなくなったのです。

友人たちとのソフトボールの試合では、一塁まで走るだけで息が切れて、座り込んでしまいました。ダーツの最中にも問題が生じました。「矢を床に落として、かがんで拾おうとすると、息が苦しくなってしまうんです」とラスさんは説明します。

そして、病院の医師からα1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)の診断を告げられました。肺胞を保護するこのたんぱく質を肝臓が十分に作れない希少な遺伝性疾患で、重度の肺気腫を引き起こすことがわかったのです。

肺機能検査では、最初の1秒で吐き出せる空気の量は、標準の約30%にまで低下しており、非常に厳しい結果でした。その後、ある医師から「このレベルでは生存期間の中央値は約5年」と説明され、大きなショックを受けたといいます。

エンジニア流の病気との向き合い方

しかしラスさんは、病気を前に立ち止まることはありませんでした。
エンジニアとして培ってきた思考を生かし、自分の状態を冷静に捉え、ひとつひとつ課題を整理しながら向き合っていったのです。
愛煙家だったラスさんは、すぐに禁煙を決断しました。さらに、α1-アンチトリプシン欠乏症の研究や治療を支援する財団を見つけ、病気の仕組みについて徹底的に調べました。

1年後、肺の1秒量の数値は40%台前半まで改善しました。これは、禁煙後に一時的に数値が回復する「スモーカーズ・バウンス」と呼ばれる現象でした。

その後、慢性的に肺機能が低下しましたが、ラスさんは規律ある生活を約20年にわたって続けました。食事管理や投薬、長距離ウォーキングなど、自己管理を徹底することで、数値の急激な低下に抗い続けたのです。

しかし、やがて生物学的な限界が訪れました。2023年には肺機能が約33%まで低下。肺気腫によって、肺は弾力を失った「伸びきった袋」のようになり、古い空気がたまり、新しい空気が入る余地がなくなってしまいました。

「気管支バルブ治療」との出会い

常に情報収集を怠らないラスさんは、医療技術の進歩を追い続けていました。そして、ある大学の医師が行っている革新的な治療を知りました。その仕組みは、エンジニアであるラスさんから見て、非常に理にかなっていました。

損傷した肺の気管支に、小さな一方向のバルブを設置します。すると、たまった空気が外に出る一方で、新しい空気は入りません。これによって、健康な肺の部分が広がりやすくなり、呼吸が楽にできるようになるのです。

ラスさんはその医師にメールを送り、「私の検査結果を見て、治療に適しているかどうか教えてもらえませんか?」とたずねました。

医師は、血液検査やCTスキャン、肺機能検査などのさまざまな検査を行い、ラスさんが気管支バルブ治療に適していると判断しました。長年にわたって歩き続け、活動的な生活を維持してきたこともプラスに働くだろう、と話しました。

2024年10月、ラスさんは気管支バルブ治療を受けました。右肺の最も損傷した部分に7個の気管支バルブが設置されました。この治療では気胸が起こる可能性があるため、3日間入院して、経過観察を受けました。

肺の中のバルブが機能していることを実感したのは、イリノイの自宅へ戻ったとき。いつもの公園へ散歩に出かけトラックの周りを歩いてみて、呼吸が改善していることを実感しました。

「1〜2週間もすると、以前よりずっと遠くまで、しかも楽に歩けるようになっていました」。靴ひもを結んだり、物を拾ったりという「かがむ」動作も大変ではなくなりました。

テクノロジーが切り拓く未来

その後、ラスさんはフロリダへ移住しました。新たに家を建て、家族と第2の人生を始めようと前向きに生活しています。

テクノロジーの信奉者として、ロボットやAIの進化を熱心に追うラスさんは、自分の肺にある医療機器と、未来のイノベーションを重ね合わせて考えています。

「家のDIYを手伝わせるために、早くロボットがほしいですね。板の反対側を持ってくれる相棒になるでしょう」

厳しい診断から、新しい生活へ。その道のりを振り返りながら、ラスさんは同じような状況の人々に助言を送ります。

「もしあなたが動けるなら、何もしないでいるよりも動いたほうがいいでしょう。将来、必ず大きな見返りがあります。動いていれば、トンネルの先に光が見える可能性があるのですから」

自分の体に起きた変化から目をそらさず、エンジニアとしての思考で向き合い続けたラス・ウェルチャートさん。 持ち前の粘り強さと、最新テクノロジーが生んだ小さな装置によって、彼は今も幸せに生き続けています。

2025年12月の取材に基づき作成しています。患者さんの状態や感じ方、治療内容は個人差があります。診断、治療については医師にご相談ください。

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