「もっと早く知っていれば」大腸がんサバイバーの後悔と願い

「元気な私が、まさかのがん。信じられませんでした」。そう振り返るのは、大腸がんなどの消化器がんと向き合う女性患者のSNSコミュニティ「ピアリング・ブルー」の代表を務め、自身もYouTubeなどで闘病体験の発信を続ける佐々木香織さん。「私ががんになったのは、検診に行けとうるさく言ってくれる友人がいなかったから」。そう語る佐々木さんに、闘病のリアルと早期発見への想いを聞きました。

自覚症状ゼロで見つかった「3センチのがん」

佐々木さんが体の異変を指摘されたのは2018年の春。会社の定期健診の便潜血検査で「要精密検査」という結果を受け取ったのがきっかけでした。

「そのときは46歳で、がんというイメージは全くありませんでした。何の具合も悪くない、元気な状態だったんです」

しかし、すぐに内視鏡検査の予約を入れ、医師に診てもらったところ、肛門に近い直腸に3センチほどの腫瘍が見つかったのです。「これ、うちでは取れないな」。検査中にそんな医師の言葉が聞こえてきたそうです。

病理検査の結果、腫瘍が悪性だと判明しました。自分は健康そのものだと考えていた佐々木さんにとって「まさか」の診断でした。

それまで大腸内視鏡検査を受けた人の話を聞いたことがなく、内視鏡カメラの存在も知らなかったという佐々木さん。

「もし当時、『絶対検査したほうがいい』とうるさく言う友人がいたら、きっと検査をしていて、もっと早くがんを見つけられたのだと思います」と悔しさをにじませます。

「初期なら安心」ではない大腸がんの現実


佐々木さんが常に持ち歩くストーマパウチ

診断はステージ1の直腸がん。夏に手術を受け、腫瘍を切除しました。「早く悪いものを体からなくしたい」という一心で手術に臨みましたが、本当の試練は術後に待っていました。

「直腸がんの手術をすると、初期であっても『排便障害』という後遺症に悩まされることがあります。直腸は便を貯めておく場所ですが、そこを切除してしまうため、便意を我慢できなくなったり、1日に何度もトイレに行かなくてはならなくなったりするんです」

この後遺症は、日常生活を一変させました。「いつ漏れてしまうかわからない」という不安から、外出が怖くなり、人知れず悩む日々。その状況に耐え兼ねて、最終的には永久ストーマ(人工肛門)を作ることを選びました。

「初期段階でも手術で切除すると結構つらいがん、それが大腸がんです。だからこそ、他の人にはなってほしくないんです」と佐々木さんは力説します。

さらに手術から半年後の検査で、肺への転移が発覚します。ステージ4(他の臓器に転移がある、つまり遠隔転移がある)状態の進行がんと診断されました。

「体は元気だったけれど、血液の流れに乗ってがんが全身を巡っているかもしれない状態にあると知ったときは、さすがに『死』を意識しました。抗がん剤治療も経験し、切って終わりじゃなかったんだというショックは大きかったです」

孤独を救ってくれた画面越しの「仲間」


佐々木さんが運営するピアリング・ブルーのウェブサイト 新規タブで開きます

転移が分かり、「もうダメなんじゃないか」と落ち込んでいたとき、佐々木さんを救ったのはYouTubeでした。

「ステージ4の子宮がんでも、元気に笑っている20代の女性の動画を見たんです。『私も大丈夫かもしれない』と勇気をもらいました。そこで、私も自分の元気な様子を伝えれば誰かが安心するかもしれないと思い、YouTubeでの発信を始めました」

「カロリーナ」という名前で自身の体験を発信し始めると、想像以上の反響がありました。「排便問題は、私も悩まされています」「同じ悩みを抱えている方がいることを知れて、勇気が出ました」。動画のコメント欄には、これまで誰にも言えずに孤独を抱えていた患者たちの声があふれました。

「大腸がんは患者数が多いにもかかわらず、安心して話せる患者会がほとんどありませんでした。排便の話など、デリケートな話題は家族にも話しにくいものです。だからこそ、同じ悩みを持つ仲間とつながれる場所が必要だと痛感しました」

その思いが形となり、2023年4月、大腸がんなどの消化器がんの女性患者を対象としたSNSコミュニティ「ピアリング・ブルー」を立ち上げました。開設から約3年、1300人以上の会員がつながり、情報交換や励まし合いを行っています。

「がんのことを語れる友達ができて、旅行にもまた行けるようになったという声を聞くと、やってよかったと心から思います」

暑苦しい友人として「内視鏡検査」を勧めたい

現在も定期的に再発・転移を確認する検査を受けながら、仕事と活動を両立させている佐々木さん。「がんのおかげでできた活動もあるけれど、やっぱり失った時間は大きい」と振り返ります。

だからこそ、一番伝えたいのは「検診」の重要性です。

「今の内視鏡技術は本当にすごいです。痛みも少なく、こんなにきれいに見えるのかと感動するほど。もっと早く知っていればと思いました」

佐々木さんは今、1000人の「がんになっていない人」に内視鏡検査に行ってもらうことを目標に掲げています。

「私がかつて欲しかった『検診!検診!』とうるさい『暑苦しい友人』になって、みなさんに勧めたいんです。検査を受けて、良性のポリープや早期がんの段階で見つかれば、私のようなつらい思いをしなくて済みます。医療費だって抑えられます」

「健康第一」。ありふれた言葉ですが、その重みを知る佐々木さんの言葉には熱がこもります。

「一人で悩まないで、つながってください。そして、まずは内視鏡検査を受けてみてください」。そのメッセージは、私たちの未来を守るための切実な願いです。

2026年1月の取材に基づき作成しています。患者さんの状態や感じ方、治療内容は個人差があります。診断、治療については医師にご相談ください。

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