事業等のリスク
当社グループの業績は、今後起こりうる様々なリスク(不確実性)によって大きな影響を受ける可能性があります。当社グループは、経営理念や基本的な指針を含む事業目標を達成するために、グローバルなエンタープライズ・リスクマネジメントの枠組みを構築しています。この体制は、「リスクマネジメント及び危機対応方針」に基づいて運用されています。また、当社グループは、「機会」と「脅威」の両面からエンタープライズ・リスクマネジメントに取り組んでいます。機会は、当社グループの持続的な成長と価値創造につながる積極的かつ適切なリスクテイクを通じて捉えられる一方、脅威は、事業目標の確実な達成とコンプライアンス違反の防止のために特定され、優先順位をつけて対処されます。
グローバル組織体制では、リスク&コントロール、コンプライアンス、プライバシー、情報セキュリティーの4つの機能が統合されています。この体制は、4つの機能に加えて、製品セキュリティー、サイバーセキュリティーを含む関連管理システムおよび当社グループにおけるリスク全体像を把握しビジネスプロセスに組み込む、いわゆるアラインド・アシュアランスを推進することを目的としています。2025年3月期において、これらの領域はグローバル法務機能と統合され、グローバルジェネラルカウンセルの管轄下にあるリーガル・リスク・コンプライアンス機能(以下、LRC)として再編されました。グローバル・チーフ・コンプライアンス・オフィサー(GCCO)は、引き続きグループ経営執行会議に出席するとともに、CEO、取締役会、監査委員会へ定期的な報告を行います。
エンタープライズ・リスクマネジメントにおいて特に注力する活動は以下の通りです。
- LRC機能におけるグローバルなリスクコントロール機能の構築
- グローバルなエンタープライズ・リスクマネジメント手法とアプローチの強化
- グローバルに一貫性のあるエンタープライズ・リスクマネジメントの構築
これらの活動に注力することで、合理的なエンタープライズ・リスクマネジメントが実行され、事業計画及び財務計画にリスクを反映することを企図しています。また、十分な情報に基づいた経営の意思決定をサポートすることで、当社の事業目標と経営戦略の達成の確度を高めることを目指しています。当社は2024年3月期に構築した統合的なグローバルリスクマネジメントポートフォリオを更に発展させ構築、2025年3月期には、全ての関連部門のリスク評価を実施し、地域別およびグローバルなリスクポートフォリオを検証、更新しました。
エンタープライズ・リスクマネジメントの組織体制
当社グループは、グローバルおよび地域レベルの委員会組織として、グローバル及び地域リスクアシュアランス・コンプライアンス委員会(以下、G-RACC、R-RACC、総称してRACCs)を設立しました。RACCsは、リスクに対処し、適用される方針、法律、規制を遵守するための枠組みを確立、実施、管理することを目的としています。また、勧告、指導、重要リスクについては、グループ経営執行会議(以下、GEC)、取締役会、 監査委員会に定期的に報告され、継続的なモニタリングが行われます。
また、リスクオーナーとして、グローバル事業・機能責任者、地域事業・機能責任者を任命し、更に各事業・機能でリスク管理を担うリスクコーディネーターを任命しています。リスクオーナーは、自身が管轄する領域において対策(例:組織体制、プロセス準備、重点対策など)を講じる責任を負います。
<エンタープライズ・リスクマネジメント体制>
エンタープライズ・リスクマネジメントの手法とアプローチ
当社グループでは、5つのリスクカテゴリー(1.戦略(外部環境変化を含む)、2.オペレーション&製品、3.ファイナンス、4.ガバナンス、5.IT&デジタル)、及びそれらを具体化したサブカテゴリーによるエンタープライズ・リスクマネジメント手法とアプローチを用いています。
<エンタープライズ・リスクマネジメント リスクカテゴリー>
また、当社グループでは、事業目標の達成や経営戦略に影響を及ぼす可能性があると合理的に判断されるリスクを評価し、明示するために、3つのリスク評価基準(1.エクスポージャー、2. 脆弱性、3.速度)を用いています。
- エクスポージャーは、発生可能性と発生時の影響によって決定します。可能性とは、リスクが顕在化する確率を示し、影響度とは、リスクが顕在化した場合の結果の重大性を示します。可能性と影響度のレベルは、定量的(財務的数値に基づく)または定性的基準として評価します。
- 脆弱性(Vulnerability)とは、リスクが発生した場合に、組織がそのリスクを管理する準備がどの程度できているかを示します。
- 速度 (Velocity)とは、リスク発生後、当社がどの程度の速さでリスクの影響を受けるかを示します。
<エンタープライズ・リスクマネジメント評価手法>
これらの基準に基づき、当社グループはリスクを積極的に特定、軽減し、監視しており、対応策を定期的に見直し、その有効性を検証しています。また、リスクを可視化して管理するため、エクスポージャー、脆弱性、速度を組み合わせてリスク評価結果を4つの象限に分け、当該リスクにどのように対処するべきかについて示す「3Dリスクマトリックス」と呼ばれる手法を用いています。さらに、最新のITツールを用いたデータベース及びダッシュボードを導入しています。2025年3月期においては、リスクポートフォリオを最適化し、同時にリスク記述を構造化、分類、標準化してより明瞭で分かりやすい記載を実現するため、社内で設計された人工知能ツールを用いてITツールをアップグレードしています。
エンタープライズ・リスクマネジメント・プロセス
当社グループのエンタープライズ・リスクマネジメント・プロセスの主な構成要素は以下の通りです。
- リスクアセスメント(リスクの特定、分析、評価)
- 対応策(リスクの低減、リスクマネジメント活動の実行及び調整)
- リスクモニタリング(リスクモニタリングプロセスの設計、実施、リスクトリートメント活動の有効性の評価)
- リスク報告(リスク及びその対応策を集約・評価し、関連するステークホルダーに定期的に報告する。リスク報告は、リスクマネジメントの年次計画の一部として立案・社内へ展開される)
エンタープライズ・リスクマネジメント・プロセスでは、いわゆる3つのラインモデルの考え方に沿って、リスクコントロール機能と各事業・機能が緊密に連携を行っています。また、リスクコントロール機能は、エンタープライズ・リスクマネジメント手法及び運用ガイダンスを提供、維持、開発する責任を負っています。
<エンタープライズ・リスクマネジメント・プロセス>
マクロ経済ビジネス環境
2024年4月以降の世界経済においては、サプライチェーンの混乱、エネルギー価格の上昇等により、多くの国で予想を上回ってインフレが進展しました。
地政学的緊張は引き続き世界のマクロ経済環境にリスクをもたらしています。ウクライナにおける戦争や中東情勢、米国と中国を含む主要経済国間の貿易摩擦等による不確実性に加え、足元では米国における追加関税に関する動向にも不透明感がみられ、グローバルな貿易とサプライチェーンにも大きな影響を与えています。
技術面では、デジタル技術、人工知能、自動化の急速な浸透が、生産性の向上を促進し、新たな経済機会を生み出している一方、データプライバシーとサイバーセキュリティーに関する懸念など、課題ももたらしています。
気候変動と持続可能性は、世界的に重要視されており、持続可能性の重視、二酸化炭素排出量の削減が求められていますが、一方で、大規模な設備投資の必要性や従来の産業への混乱が生じる可能性など、課題も抱えています。
医療機器セクターのリスク環境
メドテック企業各社は、上記のマクロ経済ビジネス環境に加えて、業界に特有の要因にも大きく影響を受けています。
この業界では、医療費の抑制や医療サービスの安全性・有効性の向上による患者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指し、国内外で医療制度改革が継続的に実施されています。また、米国食品医薬品局(以下、FDA)や欧州医療機器規制(以下、EU-MDR)をはじめ、各国の医療機器申請・登録・市販後調査に対する法規制要件は年々厳格になっており、感染予防や再処理(洗浄・消毒・滅菌)に関する要件も複雑化しています。
各国の医療政策の変化、医療費の削減、医療関連法規の強化、感染予防や再処理に対する要求のさらなる高まりなどにより、技術開発のハードルや複雑さは増しています。それに伴い、新技術や代替技術だけでなく、IT技術大手をはじめとする異業種からの医療業界への参入もあり、事業環境は大きく変化しています。
さらに、先進国を中心に社会の高齢化が進むにつれ、医療に対するニーズは確実に高まっています。当社グループが関わる事業領域には多くの競合他社が存在しており、技術革新も進む中で、競争は一層激化しています。新興国市場においては、経済成長とともに医療ニーズが高まっており、さらなる成長が期待出来ると考えています。
また、当社グループが事業を展開する業界では、 グローバルで人材獲得競争が激化しており、労働市場の変化で退職率の高まりもみられ、人材の採用・育成・確保がますます重要になっています。
当社グループのリスク状況(2025年3月期)
2025年3月期に実施したグローバルリスクアセスメントに基づき、リスクを特定・評価しました。
3Dリスクマトリックスにおいて"Improve"の領域に特定されたリスクについては、対応策の優先順位を高く設定しています。"Test"の領域に特定されたリスクについては、既にコントロールが実施されていますが、同時に、定期的なモニタリングにより、既存のコントロールが適切にかつ効果的に機能しているか、確認しています。"Monitor"の領域に特定されたリスクは、エクスポージャーが許容可能なレベルであることを継続的に確認し、必要に応じて追加の対応策を設定します。
当社グループでは、リスクカテゴリーごとに、以下のトップリスクを報告しています。
リスクカテゴリー | 戦略(外部環境変化を含む) |
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リスクタイプ | 機会と脅威 |
リスク傾向 | 上昇 |
リスクシナリオ | このリスクカテゴリーには、「計画・資源配分」、「事業開発・投資」、「コミュニケーション・ステークホルダーマネジメント」、「マーケットダイナミクス」、及び「不可抗力」が含まれます。最も高いリスクとして評価された中には、地政学上の脅威、不安定な市場における事業展開、サプライチェーンの混乱、が含まれています。
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対応策 | 当社グループでは、上記のリスクに対応するために以下の対応策を実施しています。
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経営戦略・方針との関連 | 患者さんの安全と持続可能性、成長のためのイノベーション、生産性の向上 |
リスクカテゴリー | オペレーション&製品 |
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リスクタイプ | 機会と脅威 |
リスク傾向 | 変化なし |
リスクシナリオ |
このリスクカテゴリーには、「研究開発」、「製造・修理」、「エンド・ツー・エンド・サプライチェーン」、「販売・マーケティング・サービス」、「品質」、「資産」、及び「人的資源」が含まれます。最も重大なリスクは、主に製品品質、エンド・ツー・エンドのサプライチェーン、マーケティング&セールスに関連しており、製品の安定的な供給とライフサイクル管理に影響を与えます。
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対応策 |
当社グループは、患者さんの安全を重視した高品質のサービスを提供するために、エンド・ツー・エンド・サプライチェーンの安定と品質プロセスの改善に優先的に取り組んでいます。主な活動は以下の通りです。
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経営戦略・方針との関連 | 患者さんの安全と持続可能性、生産性の向上 |
リスクカテゴリー | ファイナンス |
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リスクタイプ | 機会と脅威 |
リスク傾向 | 変化なし |
リスクシナリオ |
このリスクカテゴリーには、「資本構造」、「会計・報告」、「流動性・信用」、「収益サイクル」、及び「税務」が含まれています。
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対応策 |
当社グループでは、次のような方法でファイナンスリスクの軽減を図っています。
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経営戦略・方針との関連性 | 生産性の向上 |
リスクカテゴリー | ガバナンス |
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リスクタイプ | 機会と脅威 |
リスク傾向 | 変化なし |
リスクシナリオ |
このリスクカテゴリーには、「カルチャー」、「規制」、「法務」、「コンプライアンス」、「データプライバシー」、及び「コーポレートガバナンス」が含まれます。
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対応策 |
当社グループでは、以下の対応でガバナンス改善を図っています。
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経営戦略や方針との関連 | 患者さんの安全と持続可能性 |
リスクカテゴリー | IT&デジタル |
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リスクタイプ | 機会と脅威 |
リスク傾向 | 変化なし |
リスクシナリオ |
このリスクカテゴリーには、「ITセキュリティー・サイバー」、「ITアプリケーション」、「ITガバナンス」、「ITインフラ・サービス」及び「デジタル」が含まれます。
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対応策 |
当社では、IT&デジタルリスクに対して以下の対応を図っています。
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経営戦略・方針との関連 | 患者さんの安全と持続可能性、生産性の向上 |
2025年5月20日更新