監修医師コメント「胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査白書2021」刊行に当たって

監修医師 河合 隆 先生

東京医科大学 消化器内視鏡学主任教授・健診予防医学センター部長兼任

検査技術・内視鏡技術は日々向上。
がんとがん検診に対する正しい認知を広げ、定期的な検診受診を

正しい知識が、がんから命を守る

今回の調査結果から、がんに関する正しい知識が一般の方々にあまり浸透していないという現状がわかりました。例えば、現在、女性のがん死亡原因第1位は大腸がんですが多くの方が乳がんであると回答しており、大腸がんに対する認識不足は気がかりです。また、胃がん・大腸がんは早期発見・早期治療であれば治癒率90%と高い確率ですが、多くの方はその認識が低い回答結果となっていました。正しい知識のもと、がん検診を定期的に受診し、必要に応じて精密検査をしっかり受けて頂きたいと思います。

胃がん・大腸がんのステージIでは、5年生存率が90% 以上

コロナ禍でのがん検診受診控えのリスク

コロナ禍における今年度のがん検診受診予定者が45.2%にとどまる一方で、61.8%が受診控えによる病気の発見の遅れについて不安を感じていると回答しています。コロナ禍でもがん罹患(りかん)数は減るわけではありません。がん検診や精密検査の受診控えは、がんの早期発見・早期治療の機会を減らしてしまうリスクとして懸念されます。日本消化器内視鏡学会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言を行うなど、感染症対策に注意して内視鏡検査を行うよう促しています

日本消化器内視鏡学会 “新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言”

死亡率低減効果が知られていない、胃・大腸がん検診。正しい知識の周知が課題

“胃・大腸がん検診は、定期的に受診することで死亡率低減効果がある”ことが正しく認知されていないことは、大きな課題です。

胃がん検診について

従来実施している精密検査に加え、市区町村での検診でも内視鏡検査が導入されるケースが増えており、内視鏡検査の重要性が増しています。胃の内視鏡検査のイメージは、受診経験の有無による差も影響しており、「つらい」というイメージを持つ方は、「のどを通る時がつらい」という回答が多い一方で、「つらくない」とのイメージを持つ方の中には、「実際に受診したら、思っていたよりもつらくなかった」「バリウム検査よりも楽だった」という回答も多く見られました。最近の検査での挿入法は、経口が66.3%・経鼻が33.7%で、以前よりも経鼻挿入が増えています。今後、挿入法の選択も、受診される方の負荷低減に貢献すると言えそうです。

大腸がん検診について

便潜血検査で陽性(要精密検査)となったにもかかわらず14.4%が精密検査を受診しなかったと回答しており、その理由は「自覚症状がなかったから」「痔の出血が原因だと思った」など、誤った認識を持っている方が多いことがわかりました。初期の大腸がんはほとんど自覚症状がなく、痔と自己判断するも実際には大腸がんであるという可能性もあります。陽性(要精密検査)となった場合には、自己判断せずに医療機関を受診し、医師の指示に従い精密検査である内視鏡検査等を受診してほしいと思います。

職域検診の受診機会のない人にも、がん検診の死亡率低減効果が認知されるように

自営業やパート・アルバイトの方は、がん検診の受診率が低い傾向があり、就業環境の違いががん検診受診率に大きく影響していることがわかりました。市区町村が実施する対策型検診の案内を確認し積極的に受診いただくことが重要です。そのためにも、がん検診によるがん死亡率低減効果がしっかりあることを職域検診での受診機会のない方にも情報を届けることが大切です。

内視鏡の日々の進化。がんを治る病気に

検査技術と内視鏡技術は、日々向上しています。がんの知識やがん検診についての正しい認知を広げ、定期的ながん検診の受診、必要に応じた精密検査の受診率向上による、がん死亡率低減を実現させましょう。

胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査白書2021