米谷美久が語る開発秘話 OM-1~XAシリーズ

男女それぞれの好みを意識した
「XA」のデザイン

今は誰でもボタンを押せば写真は写る。当時はそんなこと言ったら叱られましたけどね。世界のエンジニアが必死になって、難しい技術を自動化したから写るんですから。昔はそうじゃなくて自分で勉強して、シャッターの絞りを決めて、フィルムの種類も決めていました。春夏秋冬、昼夜の標準露出表に従って撮影する時代でした。写真を撮るにはかなり勉強しなければいけない時代でした。だから、カメラの主なユーザーは男性でした。

「ペン」の時代から、カメラ購入層の98%が男性、女性は2%。「ペンEE」を発売すると女性がぐんと増えて33%になりました。それでもカメラを持っているのは男性の方が多い。全部が全部ではないですが、どちらかというと男性の方がメカ好きなんですね。メカっぽいものを好みます。ですから、メカっぽいカメラを作ることが設計者に求められていました。そういう時代に、ケースレスの、つまり表面に何もメカっぽいものが現れていないカメラらしくないカメラを作ろうとしたんです。ところが、市場はメカっぽいカメラが売れる。これまた「常識の壁」にぶつかりました。

そこで考えました。たとえば「キャップレス」とは言ってもキャップがないわけじゃない。横にスライドする“バリア”を作ることで、ケースレス、キャップレスにしようとしました。ケースレスからデザインを進めていくと、いわゆるカメラらしくないカメラになってしまうんですよ。キャップレスにしようとしても同じです。男性好みのカメラを作ろうとしているにもかかわらず、一方でそれを打ち消そうとしている。そこで、キャップを閉めたときはメカっぽくないけれど、開けたらメカっぽくなるようにしようと考えました。そうすれば、開けたときには男性が喜ぶだろうし、閉めたら女性が喜ぶだろうとね。その面白さを「XA」で実現してみたわけなんです。それはデザイン上の話です。「XA」の主なコンセプトは、あくまでも常時携帯してもらって、撮影チャンスがあればすぐ構えられるカメラということです。

キャップレスの工夫が評価されて
「XA」がカメラでは初のグッドデザイン大賞に

SONYのオーディオ「ウォークマン」は、オーディオは室内で聴くものという発想に対して、屋外でも楽しもうと打ち出したのが「ウォークマン」の注目点でした。ちょうど「XA」と同時期の発売でした。発想は同じなんです。いつでも携帯できる、かたやオーディオで、かたや映像記録装置です。

おかげさまでこの「XA」は、カメラとして初のグッドデザイン大賞を頂きました。グッドデザイン大賞というのはご存知のように、(財)日本産業デザイン振興会が主宰し、申請されるのは年間何万点。そのうち千点くらいがグッドデザイン賞に選ばれるんです。大きいものだと建物とか車両とか、小さいものだと万年筆から家庭用品までが対象で、その中から一つだけがグッドデザイン大賞に輝きます。カメラとして初めてその大賞を受賞しました。なかなかここまでに辿り着くには、いろんな意味で難しいものです。プランニング段階でも、製作段階にもいろいろなことがあるんですよ。

こんなことがありました。当時はプラスチックがクローズアップされていました。ただプラスチックで製品を作ると、どうも安っぽくなる。私はエンジニアですがデザイナーの端くれでもあるので、プラスチックを使って安っぽくなくプラスチックならではの特色を活かしたデザインをしようと考えました。それが、キャップレスのカバーに活かされているんです。

私とオリンパスの関係は
孫悟空とお釈迦様の関係を想わせる

私の歴史、それはオリンパスの歴史の一部分です。オリンパスは昔から、どちらかというと独創的な製品を作り上げるという会社のカラーがあります。しかし、私自身は決してオリンパスのDNAを受け継いだわけでもないし、教えられたわけでもありません。勉強したわけでもない。私はただただ、写真を写すことが好きで、それに必要なものと思って、一所懸命にトライしてきたわけです。

しかし考えてみればね、やっぱりオリンパスらしいですよ。オリンパスが作るような個性的なカメラがどういうわけか多くなってしまった。それはそうですよ、どこに買いに行ってもないものばかりを作ろうとしていたのですから。

孫悟空がお釈迦様に「私が世界の果てまでひとっ飛びしますよ」と言うと、お釈迦様は「行ってらっしゃい」と応えた。そして孫悟空は地の果てまで行ったんですね。そして壁のところにサインして戻ってきました。すると、お釈迦様がニコニコしながら「あなたのサインはここですよ」と指の腹を示しました。考えてみれば、すべてはお釈迦様の手の内だったというわけです。

私もね、自分がカメラが好きで、世の中にないから作るんだなんて勝手なことを言っているけれど、考えてみれば確かにオリンパスの手の内だったかな、今そんな感じがします。そんなオリンパスは、これからも個性的なカメラを作っていくことと思います。それを愛して下さる方々は、たぶん、ユーザーとして骨のある方々でしょう。是非これからも、ちょっと癖があるオリンパスのカメラですが、そのことをよく理解して下さり、支持していただければ幸いです。

文責:オリンパス ホームページ戦略グループ